鉄コン筋クリート : 映画評論・批評
2006年12月19日更新
2006年12月23日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー
あらゆる意味で2つの相反する要素が絡み合っている作品
主人公の少年シロとクロに代表されるように、あらゆる意味で2つの相反する要素が絡み合っている作品だ。物語の背景となる宝町は、昭和34年生まれの筆者に強烈な既視感を覚えさせるが、同時にどこにも存在し得ないほど無国籍で混沌としたデザインの集合体だ。その緻密さを極めた背景の上で、ラフなタッチのキャラクターが激しく動き回る。そのキャラは松本大洋の原作と、「MIND GAME マインド・ゲーム」で確立されたSTUDIO4℃のカラーが融合したものだ。そして技術的にも、最新の3DCGと伝統的な手描きの絵が高い次元でブレンドされており、専門家の目で見ても両者の境界は不明確だ。
アジア特有のカオスに満ちた風景に魅力を感じて、日本に住み続けているという監督のマイケル・アリマスは、3DCGをセルアニメ風にレンダリングするプログラムを開発した人物でもある。「失われていく古いものを、新しいものに同居させて残していく」というテーマを、技術面でも実践している男なのだ。彼はまた、ユニバーサル・スタジオの人気アトラクション「バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド」のモーションのプログラミングを担当した人物でもある。そのせいか“揺れ”に対するこだわりを見せ、アニメでありながら手持ち撮影のようにグラグラしたカメラワークを多用している。内容的にも、子供らしいほのぼのした友情を描いている一方で、寂れたストリップ小屋やら、ストレートで残酷な暴力描写など、不道徳な場面もたくさんある。しかし検閲者がそれらの要素を切ろうとした瞬間、この映画はシロを遠ざけられたクロのように崩壊してしまうだろう。
(大口孝之)