「野毛は何をしたのか 裏切り者は偉い?」わが青春に悔なし Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
野毛は何をしたのか 裏切り者は偉い?
総合30点 ( ストーリー:10点|キャスト:65点|演出:55点|ビジュアル:55点|音楽:65点 )
昔から有名な題だけは知っていたので一体どんな作品なんだろうかと興味を持って観てみた。しかし想像とは全く違う内容で、さっぱり青春してなかった。
冒頭、野毛と幸枝の理想論に学生運動にと随分と青臭い。それがいったい何に対して憤慨し何を主張し何をしているのかをしっかりと描かないので、野毛がどんな人物なのかが全く伝わってこない。これでは野毛が自由を求め正義に燃える志士なのか、ただの反政府主義者なのかすらわからない。
治安維持法と政府の弾圧のことを描きたいのだろうが、まず政府悪しという結論を最初に持ってきているのが駄目。原案はゾルゲ事件のことも参考にしたとのことだが、もしゾルゲ事件と同じならば結果的に大量の日本国民を殺すことになった大変な裏切り者であり大悪党である。野毛に全く共感できないし、それどころかこんなやつは赦し難い。劇中でこれが正義だとか10年後に真実がわかるといっているが、70年たった今ではゾルゲが日本にどれだけの大損害を与えたかがよくわかっている。もう前提が駄目で、こんな物語を作るなんて頭がおかしいのではないかと言える水準である。映画製作に関してソ連の関与か援助でもあったのかと思える。
作品としては原節子の後半の頑張りに点をつけるくらいで、物語と思想は嫌いである。原節子は戦中はあれだけ酷い目に会っておきながら、戦後は楽しそうにその場所に帰っていくのもわけがわからない。いったいどうやってその場所は急に快適で楽しい場所に変わったのだろうか。
この時代は戦前の国家主義が敗戦後に急に否定された時代だったので、何でもかんでも元政府が悪いということで正確な分析無しで最初から反動的に結論づけられているのではないだろうか。そして学生運動・反政府運動をする若者はそれだけで可哀想な犠牲者扱いですか。政府が悪いという主張はまだわかるが、それだからといって野毛が大悪党ではないという結論には繋がらない。彼がゾルゲを元にした人物像ならばとんでもない裏切り者の大悪党である。今まで観た黒澤映画で断トツの最下位作品。
白黒に加えて画像はちらついてかなり悪い。音声はさらにひどくて日本語が聞き取りづらいのは閉口する。