「ロシアにも氣志團がいたー!(笑)」レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
ロシアにも氣志團がいたー!(笑)
Back in the USSR =Beatles (ホワイトアルバム1968) のお話ですな。
アキ・カウリスマキ監督は白夜の国、北欧フィンランドの人間。
北欧の人間は、やはり暖かで、凍土とは無縁な遠い世界に憧れるのだろうか?
(フィンランド人俳優を使っての) ロシア人を主人公にしたロードムービーなんですね、極寒のシベリアから温暖なアメリカ南部〜そしてメキシコへの旅に我々をいざなってくれます。
ペーソスたっぷり。
ちょっと時代遅れの、侘しい彼らの演奏に浸れます。
ロシアの土着のバンドが、到着した新大陸アメリカの、その土地土地で、現地のニーズに応えてのレパートリー増し増しです。どさ回り巡業の悲哀です。
彼らの変幻自在の演奏スタイルが一生懸命さを感じさせ、これが実に泣かせてくれるのですが・・
でもあんまりウケないんですよ。
これが下積みというものでしょう。
フランス・ノルマンディー。
レストランでの演奏は、恐らく監督やADからは「無反応で・白け表情で」との演技指導があっただろうに、お客さんのうちの1人のおばちゃん(=エキストラ)だけが、ついにこらえきれずに笑ってるのが◎でしたけど。
シュールです。こっちだってこみ上げる笑いは全編ずっとでしたよ。
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DVDには映画は2編収録されています、
「ゴー アメリカ編」と、
「モーゼに出会う編」。
前編の「ゴー アメリカ」は、彼らも、彼らを観るこちらも、すっかりダレてしまう、まったくユルくて、覇気のない映画なのですが、
収穫としては、生きて動いて喋ってるジム・ジャームッシュを拝めて、あれは大興奮でした!
フィンランドのカウリスマキと、アメリカのジャームッシュ。
否定は出来ないですね=高学歴の彼らが描く“低層庶民の生態“は、【被写体となりモデルとなったローソサエティたちの共感とか苦笑いとかを誘って客席を楽しませてくれる趣向】なのか、
あるいは逆に、【意識高い系=ハイソクラスからの“上から目線の 芸人いじり”。あるいは“おもちゃ扱い”映画】なのかわかりませんが、
独特のナンセンスがたっぷり。
俯瞰して見れば、嗤い飛ばされているのはやはり
日頃、貧困と粗食に慣れさせられてもいる民衆の国、ウラジミール・プーチンさんの あの国なんでしょうね。
そして
後編「モーゼに出会う」は、一転し鮮やかなカラーです。
2作を前編・後編として続けて観ることで、テーマがやっと明確に見えてきますよ。
カウリスマキ監督は、プロフィールを調べるといくつもの「三部作」をこさえている人。
つまり、1本の映画では撮りきれない空気の厚み、物語の深みを、彼は二部作、三部作と重ねてセットにすることで、こちらに漸く伝えきれる何事かを持っているのです。
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政治家と、資本家と、宗教家のプロパガンダにいいようにされている楽団のメンバーは、やはりロシア国民の象徴なのだろうなぁ。
でも歌いながら流浪するこのバンドはたくましく生きていく。
世界中にいる かようなロシア系移民たちは、移りゆき、変わりゆく祖国ロシアのあり様を どう思っているのだろうか、
アメリカでトラクターが耕す畑を見て、あれだけつまらなかった故郷、逃げ出してきた かつてのふるさとシベリアを思い出している彼らのシーンは、短いけれど、あの後ろ姿は じ~んと心に残りましたから。
映画では、新しい土地に足を付け、生活と歌でその地に根ざしていこうとするグループ(メキシコ班)と、やはり(問題こそあれ)生まれ故郷へ戻ろうとするグループと、
袂を分かちながらそうやって生きている海外の同族たち。そして移民たち、Uターン族たちが描かれる。
巡り巡ったあとに、やっとふるさとソ連の国境を越えた彼ら。なんだかホッとする結末でした。
これは
ナンセンス映画のように見えて、実はとんでもないリアリティを持った民族・文化・歴史の物語なのでした。
たとえば在外の中国人公官とか北朝鮮の兵士たちにこれを見せたら、彼らの心には何か響いていくのではないかな。
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おまけ
「今日の きりんの職場探訪♪」
今日仕事場でおしゃべりをしたアルバイトさんは2名でした。
①ドバイでトラックの運転手をやっていたよというパキスタン人の青年。ドバイと日本と、2枚の免許証を見せてくれました。センスの良いズボンでしたね。
②マニラでアマゾンのコールセンターで働いていて、「英会話とモンスタークレーマーの相手はそりゃあ鍛えられたね」と笑うフィリピン人の男の子。
女の子かと思ったほどの柔らかい表情と控え目な声。
二人とも クニの母親には電話をしていると語ってくれました。
本作「レニングラード・カウボーイズ」同様に、全世界を流れながら稼いでいる人たちが こんなにもいっぱい!
事実は小説よりも奇なり です。