「大人が観るに堪える、大人のための娯楽アニメ」ルパン三世 カリオストロの城 keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
大人が観るに堪える、大人のための娯楽アニメ
状況は徐々に好転しつつあるとはいえ、中々安心して映画館に行けない世情の中、久しぶりに本作をDVDで観ました。言わずと知れたアニメ映画の名作にして、今や伝説の巨匠となった宮崎駿監督の記念すべき劇場映画第一作です。
40年以上前の作品にも関わらず、冒頭いきなりスリリングなカーチェイスの導入からのテンポの良い展開に、いつの間にか映像に惹きつけられていきます。ストーリーは荒唐無稽なクライムアクションですが、枠組みはシンプルな勧善懲悪であり、実写では撮れないアクションのカットをアニメだからこそ描き出した、大人が観るに堪える、寧ろ大人のための娯楽映像アニメ映画といえます。
『鬼滅の刃』『君の名は。』といった近年の大ヒットアニメのような、緻密且つ鮮明で写実的な描写ではなく、嘗ての伝統的なTVマンガのような粗い筆致であり、リアルさがなく嘘っぽい分、変に感情移入することもなく、却って荒唐無稽な映像の世界として楽しめました。
将に痛快活劇、007ばりだが、007ほどの色気や緊迫アクションはなく、派手で豪快だが軽妙で滑稽、スパイサスペンス、アクション、スラプスティックコメディーにロマンスも鏤められた、「笑って、泣いて、(手に汗)握る」という娯楽映画の三要素に満ちた映画であり、未だに歴代アニメ映画の上位にランクされるのも大いに合点がいきます。
ところで、今、東京国立博物館 平成館では6月1日から再開した「国宝 特別展 鳥獣戯画のすべて」が開催されています。京都栂尾の古刹・高山寺所蔵の国宝・鳥獣人物戯画 全四巻全画面を展示する画期的な催しですが、この謎多き鳥獣人物戯画こそ、日本のマンガ、延いてはアニメ文化の嚆矢にして原点だと看做せます。鳥獣人物戯画に端を発し、江戸期に浮世絵によって庶民文化として百花繚乱に隆盛を極め、明治の風刺画を経て今のマンガ/アニメにつながる、1000年に亘る滔々たる大河の流れです。
本作は、見事に鳥獣人物戯画を現代に置換え、台詞をつけアニメ化したと思えます。さしずめカエルがルパン、ウサギが次元、キツネが五右衛門、サルが銭形に準えられるのではないでしょうか。
息つく暇なく繰り出されるアクションの連続、ユーモアの効いた洒脱な台詞の数々、そして、あのあまりにも有名な銭形警部がクラリスに呟くラストの台詞、「奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です。」
そう本作は、愛する聖なる可憐な女のために命を投げ出す男たちの夢と情熱の物語でもあるのです。