乱のレビュー・感想・評価
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これは酷い
黒澤が書いた脚本を読んで脚本家の小国英雄はこうアドバイスしたと言う。
「原作のリア王が書かれた時代と現在とでは観客が違う。シェイクスピアの時代、観客は強力な王様がどれほど重要なのか肌で感じていた。彼が死んでいくこと、そしてその息子達が争うことがどれほどの悲劇のなのか彼らは知っていた。彼らの心の中にはいつも他国からの侵略の恐怖があった。だが今の映画ファンはそうではない。脚本はそれを説明しなければならない。キングがどのように強かったのか、どのように賢かったのか、どのように恐れられ、どのように愛されていたのか・・・」
これについて「七人の侍」や「切腹」で有名な脚本家の橋本忍もその自伝の中で同じ意見を述べている。
だが黒澤はアドバイスを無視して自分の書いた脚本のままで映画化した。彼の全盛期の傑作は彼らのアドバイスの賜物だったというのに・・・
そしてこのような酷い失敗作を作ってしまった。原作にはケントという人物が出てくる。その人物がリアを守ろうとする。 それによってリア王がかつて、いかに優れていて、いかにリスペクトされ、そして現在もいかに重要なポジションにあるのかが表現できている。リア王を守ろうとすることは同時に国家を守ろうとすることになるのである。それが上手くいくかどうかということが当時の観客にとってはとてもスリリングでだったのだ。
シェイクスピアは作品の中でこのような工夫をしているのだが黒澤はしなかった。彼の脚本でケントは縮小されリア王の惨めさが拡大された。スケールの大きなドラマとしてのリアリティが失われ、単なる老人が惨めになっていくドラマになってしまった。
それまで強権を振っていた王が突然耄碌したら周りはもっとパニックになるはずだ。原作では子供たちが娘だったので政治を知らない軽率な振る舞いをしてもリアリティがあった。そしてその夫たちの行動には慎重さがあった。乱ではリア王の娘たちのままに新王たちがマヌケな行動をとっている。前王の影響力を恐れて新王や側近はもっと慎重に振る舞うはずだ。そのように描いておけば前王とタッグを組んだ時の三男の持つポテンシャルが暗示され、前王がいっくら惨めになっても観客はそこに期待して最後まで映画を楽しめたことだろう。
・・・写真も全然美しくないし、演技も学芸会レベル。これは駄作中の駄作である。
恐るべき、恐るべき映画。劇場で見たならしばらく立ち上がれなかっただ...
恐るべき、恐るべき映画。劇場で見たならしばらく立ち上がれなかっただろう。合戦映画の頂点で、ライフワークとして望んだ作品を自身の最高峰に仕上げた黒澤明には感嘆する。もうこのような映画は作られることはないだろう。傑作、名作、一級、芸術。
マスベスとリア王との物語の違いはあれども、本作は結局のところ、蜘蛛巣城のリメイクだったのだと思います
紛れも無く黒澤明監督の映画を観たという満足感があります
全くの傑作で世界の映画賞の数々を受賞するのも当然です
黒澤明監督の最高傑作の一つと言って良いと思います
とは言え既視感があります
それは黒澤明監督が本作の30年前に撮った1955年の作品蜘蛛巣城のことです
蜘蛛巣城はマスベス、本作はリア王の翻案です
ですから筋書きは全く別です
ですが既視感があるのです
マスベスもリア王も観客がその筋書きをみな承知しています
それでも面白く、また翻案のレベルも高く完全に日本の物語になっている点は本作も蜘蛛巣城も同じです
しかしそれが既視感という訳では、ありません
一体何が既視感をもたらすのか?
まず似たシーンが多く有ります
原田美枝子の楓の方が入れ知恵をするシーンです
彼女の鬼気迫る演技は素晴らしいと思います
しかし、これは蜘蛛巣城での山田五十鈴が演じた主人公の妻に相当するシーンで既視感が有ります
そして、山田五十鈴を上回ったかというと空恐ろしさでは上回ってはいなかったと思います
比較してしまうのです
また三の城の落城シーンも蜘蛛巣城のクライマックスと相似形です
スケールがより大きくなっていますが、これもまた既視感があります
横殴りの雨のような矢の嵐は蜘蛛巣城の強烈さを上回っていたと言えるでしょうか?
これもまた比較してしまうのです
白黒映画時代の蜘蛛巣城でやりたかったことをカラー撮影で再度やり直した感があるのです
フランスの資金を得て潤沢な製作費で、黒澤監督の完璧主義を満足させて撮り直した蜘蛛巣城といった体なのです
マスベスとリア王との物語の違いはあれども、本作は結局のところ、蜘蛛巣城のリメイクだったのだと思います
主演の仲代達矢は正に当て書きそのもので、彼にしか演じれないものでしょう
完璧であると思います
狂阿弥のピーターは本作の独自のものですが、中性的存在の期待された役どころを発揮出来ていたかというと不足していたと思います
また狂言としての芸のレベルが今一つ低く、観客を感服させる域に達していないのは残念でならないと思います
その点、盲目の鶴丸を演じた野村武司の方が遥かに存在感を示しています
お末の方の宮崎美子ともども、もっと画面に登場させれば、本作のテーマをより一層陰影を付けれたのではと感じました
撮影は色彩の鮮やかさ、望遠を多用していながら、手前から背景まで全ての焦点の合い方など驚嘆すべき映像がとれていると思います
影武者の撮影よりも格段に優れています
衣装、セット美術もまた世界最高峰のものだと思います
影武者よりも美術の統一感が上がっています
戦闘シーンの数百人の隊列の動き、数十の騎兵の猛速度の表現、戦闘の推移の簡潔な表現
黒澤監督にしか撮れない映像です
これも影武者の経験を踏まえてより的確に効果的になっています
音楽も影武者のような無理矢理な西洋風味ではなく、西洋のクラシック音楽でありながら日本的であり重厚さを失っていません
蜘蛛巣城の既視感はあれど
本作はやはり名作であるのは間違いの無いことです
期待していなかったんですが非常に感動しました、発表当時あまりに評判...
期待していなかったんですが非常に感動しました、発表当時あまりに評判が悪くて黒澤明が好きな故に敬遠してきました。確かに血糊や主人公のメーキャップが如何かというのはありますが、その時観たらまだ学生まがいでしたので「なんだこの暗さは!」で反発したはずですが歳とったので「あぁ絶望していたんだなぁこの頃の黒澤は」「この世はもう終わりだ家族も人間も世の中も全く希望が持てない、そんな気持ちになっていたらこの映画はズッと観入れる映画だなぁ」「今の自分にはなんとなくだがシックリくるなぁ」という流れで大好きです。※『天国と地獄』以降の黒澤映画は、偏見ですが50歳過ぎて子供が成人し親が老いぼれ栄達も叶わぬぐらいの境遇になってから観た方がいいような気がしました。
規格外
20世紀を代表する名画
黒沢映画が世界的に高い評価を得ていることは勿論知っていた。しかし敢えてDVDを借りて観るほどでもないだろうと高を括っていたのが正直なところだ。それが大きな間違いであったことがこの映画を観てよくわかった。
4Kデジタル修復版で仲代の凄みのある表情を余さず観ることができたのは非常にラッキーだと思う。
俳優陣はいずれも達者な演技振りで、寺尾聰の太郎、根津甚八の次郎は、気の弱い凡人が強烈なエゴイストたちに振り廻される情けない姿を遺憾なく演じきっていた。井川比佐志が演じた次郎の筆頭家臣の鉄(くろがね)修理は豪胆な武将の存在感にとても重味があった。
凄かったのはやはり主演の仲代達也と原田美枝子だ。ふたりとも怪演という言葉が相応しい大迫力の演技だった。この二人が演じた秀虎と楓の方の強烈な思いがストーリーをぐいぐいと引っ張っていく。歴史は構造的に作られる面もあるが、こういった強烈な個性によって動かされることもあるということを改めて感じた。
そしてピーターが演じた道化師の狂阿彌。権力に縛られない恐れ知らずのこういう存在を登場させることで、権威を相対化し、物語に奥行きを与えている。ピーターはほぼ出ずっぱりの大活躍だった。
性格悲劇という考え方を16世紀末の演劇の世界に持ち込んだシェークスピアは、性格の齎す益と害が、権力者においては多くの人々の命にかかわる一大事であることを数々の作品で表現した。
黒沢監督はそのひとつ、リア王をさらに大きなスケールで演出し、必然と偶然、同盟と裏切り、誠実と欺瞞を対比させつつ、壮大な人間ドラマに仕立て上げた。いま観てもまったく古臭さを感じさせない。人類普遍のテーマを表現した映画はいつまでも新しいのだ。
音楽は武満徹。私には「死んだ男の残したものは」(詞:谷川俊太郎)の作曲家として胸に刻まれている天才である。ティンパニと小太鼓大太鼓を効果的に使って場面ごとに迫力のある印象を残す。武満の曲の指揮が岩城宏之で、いまとなってはビッグネームばかりのキャストとスタッフだ。
20世紀を代表する名画のひとつである。
今となってはもう作れない映画
心の失明
ストーリーはリア王なので、詳細は省くとして、とにかく画像というか、...
黒澤映画。キレイ
大掛かりな哲学的舞台芸術のよう
総合80点 ( ストーリー:90点|キャスト:75点|演出:70点|ビジュアル:80点|音楽:70点 )
かなり金のかかった大掛かりな作品である。脚本も洗練されていて、哲学的・芸術的な香りがする。戦国乱世の厳しい世の中に浮かび上がる人間の性(さが)を切り出して、愚かさや野望や恨みが引き起こす乱とその悲劇を美しく物悲しく虚しく描いている。
だが映画作品なのに何か説教くさいというか説明っぽい科白回しが気にかかる。シェイクスピアの「リア王」を基本にしているというせいだろうか、演出が映画というよりも舞台芸術のようなのである。私は科白をしっかりと覚えて今情感を込めてしゃべっていますよ、そんな印象を受けてしまって、映画としてはそこが気にかかって入り込めないことがあった。
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