「何気ない日常の言葉がラブレターに変わる瞬間」Love Letter 座布団さんの映画レビュー(感想・評価)
何気ない日常の言葉がラブレターに変わる瞬間
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「お元気ですか、私は元気です。」
かの有名な「ロミオ、あなたはなぜロミオなの」と並ぶ名台詞というのは誉めすぎだろうか。
しかし、このなんてことのない言葉を、かくも美しい言葉に変えた奇跡にただただ打ちのめされ、その美しさに酔いしれ涙を流したのは紛れもない事実だ。
クライマックスで絞り出した言葉に込められた様々な想い。
もう二度と会えない恋人に会いにきた。
突然の死別で時が止まったままの主人公の感情が徐々に溢れる。
彼が命を落とした雪山に向かって必死に叫ぶ。
木霊は当然ながら同じ言葉しか返してくれない。
それでも何度も何度も叫ぶ。
お元気ですか、私は元気です。と。
違う言葉を返してくれるのではないか。
そんな願いも込められていたのだろう。
この言葉が、亡き恋人への哀切であり、これから違う道を歩んで行く決意であり、別れの言葉になるとは思ったこともなかった。
あのシーンで何を言わせるのか、それがこの台詞なんて、考えれは考えるほど恐ろしい。ここまで紡いできた物語が台無しになるかもしれない。それでも言わせた脚本と演出、見事に演じた演者。映像美、音楽、音響。どれが欠けても成立しなかったに違いない。
亡き恋人に手紙を送る。そのロマンチシズムを甘いととるか、文学的ととるか。その後の展開の見事さと二人の中山美穂と、過去と現在、優れた構成が甘ったるいという批判を無意味なものにし、失われた時を求め、取り戻す旅に誘う。
非日常でありながら普遍的で色褪せることのないラブストーリーに昇華した奇跡の映画である。
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