「「お元気ですか。私は元気です」と呼びかける印象的なシーンは様々な思い出も重なって、胸が熱くなりますね。」Love Letter 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
「お元気ですか。私は元気です」と呼びかける印象的なシーンは様々な思い出も重なって、胸が熱くなりますね。
岩井俊二監督長編第1作『Love Letter』が公開30周年を記念、4Kリマスターで鮮やかに蘇り、4月4日から全国の劇場でリバイバル上映中。
昨年12月急逝された中山美穂氏への哀悼の意を込めてテアトル新宿さんにて30年ぶりの鑑賞。
『Love Letter』(1995/117分)
本作が公開された1995年はリュック・ベッソン、クエンティン・タランティーノ、ウォン・カーウァイなど新進気鋭のクリエイターが台頭、ミニシアターブームも重なって新風が吹くなか、国内ではテレビドラマ『FRIED DRAGON FISH』(1993)、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(1993)や『undo』(1994)で旧来のドラマや邦画とは全く異なる、スタイリッシュな映像美を織り成す岩井俊二監督の登場は衝撃で、長編映画デビューは日本映画も遂にターニングポイントになるかと期待に胸を膨らませて劇場に足を運んだ思い出があります。
岩井俊二監督と撮影監督の篠田昇氏、照明の中村裕樹氏の織り成す、暖かな自然光はじめ明々したストーブやガラス溶融炉、照明の逆光を活用した柔らかな光とそよ風の優しい世界観や空気感は4Kリマスター化でさらに美しさを増しています。
改めて観なおしてみると一つひとつの小道具も細部に渡るまでアンティークのように洗練されていてお洒落。ワンシーン、ワンカットが絵画や絵はがきのような芸術性高いですね。
そして本作のもうひとつの魅力は渡辺博子と藤井樹の一人二役を演じた中山美穂氏。
『ビー・バップ・ハイスクール』『毎度おさわがせします』『ママはアイドル』での圧倒的人気の国民的アイドルでしたが、本作でお淑やかな渡辺博子と少し勝気な藤井樹の一人二役を大げさな演じ分けでなく、見事繊細に演じ切ることで本格的な女優として大きく飛躍、岩井監督の映像美も相まって、どのカットも実に神々しく、個人的に彼女の代表作ですね。
また樹の(少年・少女時代)を演じた柏原崇氏、酒井美紀氏、そして豊川悦司氏も瑞々しい演技も良いですね。
ラスト。
樹が遭難した山に向かい「お元気ですか。私は元気です」と呼びかける印象的なシーンは急逝した中山美穂氏本人との様々な思い出も重なって、胸が熱くなりますね。