「過去の出来事の真実が明らかになることで、登場人物が救われていく温かみのある物語、そして鮮やかなラストシーン」Love Letter Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
過去の出来事の真実が明らかになることで、登場人物が救われていく温かみのある物語、そして鮮やかなラストシーン
岩井俊二脚本・監督による1995年製作(113分)の日本映画。配給:日本ヘラルド映画
ヒロインが通っていた高校の図書貸出カードの裏に、高校時代のヒロイン酒井美紀の美しい肖像スケッチ(亡くなった同級生が高校生時代に出した一種のLove letter)が描かれていたというラストシーンが、凄く鮮やかであった。恥ずかしながら自分も、高校時代に類似趣旨の創作物を女子生徒に贈ったことを思い出した。
このラストシーンのために、藤井樹という同性同名の男女での図書委員活動、駐輪場での待ち伏せで返したテスト答案の裏への落書き、貸出カードに100以上と沢山の藤井樹の名前の記載があったこと等、幾つかの伏線が組み立てられている脚本も、実にお見事。
肖像スケッチは、転校前に少年からヒロインに渡された小説『失われた時を求めて 第7篇見出された時』(マルセル・プルースト著)の貸出カードの裏にあった。読んだことは無いが、おそらく、この映画の言わば原典の様な小説なのだろう。
学生時代に恋されていたことを知って幸福感を感じた中山美穂・藤井樹だけでなく、他の登場人物も救われていく展開には暖かい感慨を覚えた。
中山・藤井樹の母(范文雀)は、同居の父親(篠原勝之)が判断を間違えて夫が死んでしまったとの誤解が解けたし、亡くなった藤井樹の恋人であった渡辺博子(中山美穂)は、藤井樹の故郷へ新しい恋人候補・豊川悦司に促されて行き、一目惚れされた訳を知ったことにより、前を向いて歩ける様になる。苦いことも含めて過去の出来事の真実が明らかになることで、未来へ向かう原動力が産まれるという構造が、観念的且つ論理的で興味深く、知的な映画だなとも感じた。
そして、青みがかった雪の中の映像、対照的に少し赤みを入れた色調の高校時代(図書館の揺れるカーテン等)の映像が何とも美しく、岩井俊二 が脚光を浴びたのも納得させられた。また、REMEDIOS( 麗美)によるという音楽も素敵であった。
監督岩井俊二、脚本岩井俊二、製作村上光一、企画重村一、堀口壽一、エグゼクティブプロデューサー松下千秋、 阿部秀司、プロデューサー小牧次郎、 池田知樹、 長澤雅彦、撮影篠田昇、照明中村裕樹美術細石照美、録音矢野正人、編集岩井俊二、音楽REMEDIOS
出演
中山美穂渡辺博子・藤井樹、豊川悦司秋葉茂、酒井美紀少女・藤井樹、柏原崇少年・藤井樹、范文雀、篠原勝之、加賀まりこ。
こころさん、共感及びコメント有難うございます。
肖像画では有りません。昔のこととはいえ、といぇも恥ずかしくて、贈ったものは内緒ということで許して下さい。