「奇跡的な作品&日本近代史のテキスト(清朝崩壊―満洲国―中共成立―文革)」ラストエンペラー Haihaiさんの映画レビュー(感想・評価)
奇跡的な作品&日本近代史のテキスト(清朝崩壊―満洲国―中共成立―文革)
1987(日本は1987)年公開のイタリア・中国・イギリス・フランス・アメリカ合作による歴史大作。
劇場公開版は163分。
いわゆるディレクターズカットは219分。
【監督】:ベルナルド・ベルトルッチ
【脚本】:ベルナルド・ベルトルッチ、マーク・ペプロー
【原作】:愛新覚羅溥儀〜『わが半生』
【音楽】:坂本龍一、デイヴィッド・バーン、蘇聡
主な配役
【愛新覚羅溥儀】:ジョン・ローン
【皇后・婉容】:ジョアン・チェン
【レジナルド・ジョンストン】:ピーター・オトゥール
【甘粕正彦】:坂本龍一
【戦犯収容所所長】:英若誠
【西太后】:リサ・ルー
【川島芳子】:マギー・ハン
1.まさに歴史的な作品
1日あたり数万人の観光客が訪れるといわれる「故宮」を、数週間にわたり立入禁止にして撮影された。
つまり、中国政府の全面協力で映画は製作された。
鄧小平による改革開放のひとつの象徴である。
公開の2年後に天安門事件が起きることになる。
そう考えると、本作が製作された時期の奇跡は感慨深い。早くても、遅くても、ダメだったのだろう。
2.溥儀の半生 ≒ 日本近代史
大杉栄暗殺事件(甘粕事件)の主犯で、服役後、満映理事長として満洲国を牛耳った甘粕正彦を、坂本龍一が演じた。
『戦場のメリークリスマス』から4年たっている。
坂本龍一は、生涯、映画に出演したのは3作品しかない。
最後の皇帝・溥儀を演じたジョン・ローンともども、実物とのギャップを強く感じる配役だ。
だが、よほどの歴史マニアでないかぎり、本作を日本近代史のテキストとしても、間違いではない。
日本陸軍が首謀して満洲国をでっちあげ、本作では深く触れないが、アヘン販売で巨額の富を得た。
陸軍内部で利権争いが起きるほどの巨万の富だ。
溥儀は、ただの飾りに過ぎなかったが、
溥儀自身は、皇位返り咲きに大いに満足していたと伝わる。
3.一番印象的なシーン
冒頭、文革の嵐が吹き荒れるシーンが一番印象的だ。
文革(文化大革命)は、いわゆる、官製暴動だ。
よく、中共政府が協力したなと思う。
中共が公式に文革を誤りだと認めるのは、本作公開から4年後のことだ。
(1981年「 建国以来の党の若干の歴史問題についての決議」)
徒党を組んだ若者たちから、元収容所幹部などがリンチにあうのを溥儀が止めようとする。
こんなシーンの撮影を許すなんて、ちょっと考えられないが、中国政府としても、かなり思い切ったイメチェンにトライしたのだろうか。
4.まとめ
例によって、映画につきものの、
◆省略
◆デフォルメ
◆ある側面からの切り取り
はある。当たり前だろう。
時間の制約のあるなか、よく描き切ったと思う。
いま、製作しようとしても、もっと改竄され、もっと制約を受けるだろう。
奇跡の作品だと思う。
歴史を描くのだから、多少退屈なシーンがあってもやむを得ない。
☆4.5
なるほど!そう言った見方出来ますね。
納得しました。貴殿も相当の近現代史のマニアか人に教える仕事をされている方だと勝手に思ってます。2年後に天安門ですものね。