「そうじゃないわ!こうだわ!」羅生門 KIDOLOHKENさんの映画レビュー(感想・評価)
そうじゃないわ!こうだわ!
これは芥川龍之介が書いた「薮の中」と言う訳の分からん小説が原作だ。と、ある事件があるのだが。事件の当事者がそれぞれ違うことを言っていて、誰の言ってることが真実かわからないって話だ。死んだものの霊さえも嘘をついている。イヤついてるかどうかわからないってな。当時まだアマチュアだった、その後の天才脚本家、橋本忍の脚本。そもそもこんな変な小説を、脚本化しようとするのが分からない。それをまた映画化しようとしてるのもどうかしている。なぜ黒澤これを映画化したのだろう?この映画時代の素晴らしさについてはみんなが語っているから私はそこのところを語りたいのだよ。
なぜ、黒澤はこれを映画にしたのか?それは「素晴らしき日曜日」から「七人の侍」までが一つの戦後クロニクルとして成り立っていることを見れば分かるのだ。それについては七人の侍のレビューのところに書いておいたから、興味がある人は読んでほしい。つまりこの映画は戦争についての多面性について語っているのだ。一般庶民には、情報がほんの一部しか伝わってこないし。胡散臭い戦争だなあと言うのはわかるんだが、戦争の真実がわからない。また、ある面から見れば正義である。ある面から見れば悪であり、何が何なのかさっぱりわからない。そういう含み、そういう面白さを橋本忍の脚本と芥川龍之介の原作に見出したので、黒澤は、これを映画化することにしたのだ。この脚本は、ほとんど橋本忍が一人で書いたものだが、最後の赤ん坊を救うという部分だけは黒沢明が描いた。戦後を描くというテーマがなかったら、この部分はいらないのだ。この部分があることによって、黒澤明がなぜこの映画にこの脚本に興味を持ったのか、我々は知ることができる。
