劇場公開日 1983年10月29日

「48時間の魔法が永遠に続く世の中にならないといけないのです」48時間 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.548時間の魔法が永遠に続く世の中にならないといけないのです

2021年7月15日
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鑑賞方法:DVD/BD

最高に面白い!
この頃のウォルター・ヒル監督は本当に油が乗っていました

エディ・マーフィーの映画デビュー作
なのにもう堂々としたもので風格すら感じます
21歳、溌剌としてます

但し、主人公は白人刑事のジャックで、主演は彼を演じたニック・ノルティです
エディはあくまでも共演の脇役です

エディが出演していてもコメディじゃありません
もちろんエディはいろいろ面白いことやったり、言ったりはしますが、白人刑事と黒人囚人の変則バティでの刑事ものです

エディが登場するまでは、ひょっとしてダーティハリーを観てるのか?と思うほど

とはいえ、お話はテレビの刑事もの程度
48時間という設定も方便に過ぎません
ウォルター・ヒル監督は、そこを分かって撮ってます

監督が撮りたいことは、違うところにあるのです
それは、白人と黒人の関係性です

そのテーマを、熱血デタラメ白人刑事のジャックと、相棒の黒人囚人レジー・ハモンドとの対比で描くことです

白人のジャックは、K-mart で買ったような安物でクタクタのジャケット姿
車は大型なれど10年以上乗り倒したボロ
図体もデカいが、頭は脳が筋肉で大して良くない

黒人のレジーは囚人なのに、週末だけの保釈で出て来た私服はパリッとしたスーツ
明らかにちょいと高そうなものです
収監中、駐車場ビルに預けていた彼の車は外車のオープンカーです
頭の回転は凄まじくはやく機転が効くし、度胸もある
身体は細身だが、ケンカはなかなか強い

白人は身なりが良くて、教育を受けている
黒人は見るからにみすぼらしく、愚鈍
そんな映画は山ほどあります
だから本作は普通の白人と黒人の対比と逆です
ここに着目しなければなりません

この逆転の構図は1967年の「夜の大捜査線」以来かもしれません
そう考えると、ことによると本作はそのリメイクだったのかも知れません

白人警官が、何にもしていなくても黒人を痛めつける
黒人が生意気な口を叩けば殴られるのは当然
60年代、70年代はそんな世の中が普通のことだったのです

だから、良い身なりの黒人が、安手の服の白人を言い負かす
果ては、ボコボコに殴りあう
どれだけ、観客の黒人達は胸のつかえがおりたことでしょう

南部連合の旗を掲げたカントリーミュージックのライブバーのシーン
もちろんその旗は奴隷解放反対の旗です
ZZ トップみたいな見た目の白人連中の溜まり場
そこに黒人のエディが単身乗り込んで、白人達を威圧して大暴れしてきます
きっと私達日本人が高倉健が任侠映画のクライマックスで敵の一家に殴り込みを掛けるシーンに感じる以上のカタルシスがあったのだろうと思います

ジャックは黒人のレジーに向かって、お前は道具だと言い放ちます
凶悪犯を捕まえる為だけの道具だと
人間として認めていない、俺の奴隷だと言っているのと同じです
そして鎖の代わりに手錠で彼を繋ぐのです

しかしレジーの有能さや人間性を知り、次第に認めるようになり、終盤にはレジーを罵倒する署長に反論するほどまでにジャックは変わっていくのです
黒人だって同じ人間だ、仲間だとジャックは変わったのです

1982年の公開
署長は黒人
有能さが問われる組織は人種差別はなくなりつつはあったのです
しかし、一般社会、まして人の心の中は別です

このようにお互いの本音をぶつけあって初めて、
人間が人間として互いを理解しあえ、人種を超えた真の友情を持つことができるはず
それが本作のテーマであり、メッセージだったのです

ジャックのようなデタラメ白人刑事だって、乗り越えてみせたのです
彼のデタラメさが過剰に演出されていたのは、その為だったのです
こんな人だって乗り越えられたのです
誰だって乗り越えられるはずだと

観ている内に気付きます
本当の主演はエディだったと
ジャックを演じたニック・ノルティの方が、実は狂言回しだったと

だからタイトルは48時間なのです
48時間経てば、映画の魔法が解けてしまうのです

ジャックとレジーは、刑事と囚人に逆戻り
白人と黒人が互いを認めあい二人の間に大きく育った友情も、その魔法が解ければなくなってしまう
シンデレラの馬車のようなものなのです

この映画で溜飲を下げてみた所で、映画館をでれば、いつもどうりの差別のある街があるだけ
48時間の魔法が永遠に続けば良いのに

それがラストシーンの美しい朝焼けの意味だっだと思います
二人はその美しい朝焼けに向かって走り去って行くのです

48時間の魔法が永遠に続く世の中にならないといけないのです

最後にさすがウォルター・ヒル監督作品です
音楽が良いです
そしてその音楽の音質もとても良いのです

あき240