「映画の教科書、何度観ても面白い。」用心棒 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
映画の教科書、何度観ても面白い。
黒澤明の映像表現は、多くの映画人が手本とするところ。
この作品で一番の名シーンは、三船敏郎演じる素浪人が宿場に到着したその途端、手首をくわえた犬が歩いてくる場面かもしれない。
この宿場がただならぬ状況だこいうことを一目でわからせる名アイディアだ。
黒澤明は、監督デビュー作の「姿三四郎」で、三四郎が矢野正五郎に出会うイントロから本筋に移る時間の飛躍を、川の端の杭に引っ掛かった下駄に四季の移ろいを反映させることで見事に表現していた。
犬のシーンだが、祖師ヶ谷大蔵でスカウトした素人犬だったらしく、
カメラの後ろから飼い主が呼び寄せるのだが、犬の動きが予測できない。
シネマスコープは二つのレンズでピントを合わせなければならないが、
予測不能の犬の動きに見事にピントを合わせきったのは、
当時撮影助手だった木村大作だと、
野上照代さんのインタビュー記事で知った。
三船が縁の下を這って逃げるシーンでは、
吊り下げたカメラを脚立の上からテープと紐を使って操作し、
180度パンでもピントを合わせている。
これは、本番ではレンズを覗けず、リハーサルで距離を把握して感覚で合わせたそうだ。
木村大作は、黒澤明から日本一のピントマンと評されたらしい。
冒頭、浪人三船が目的もなく気の向くままに歩いていることが台詞なしで説明されている。
そして、目の前に現れた百姓親子の言い争いで、近くの宿場で何かが起きていることを暗示する。
この場面、三船を中央奥に配し、手前で百姓親子の争いを見せ、
争い事の様子とそれを観察する三船の様子を同時に捉える映画的手法に、
親子が上座から現れ息子は下座に父親は上座に捌けていく演劇的手法が重なっている。
同様の構図が、
宿場で対立する両陣営をけしかけて、
自分はヤグラに登って文字通り高みの見物を決め込む場面でも見られる。
ここでは、中央奥の三船が高い位置なのでカメラは仰角に据えられ、
右から清兵衛一家、左から丑寅一家が、
剣先が届くか届かないかの距離で押して引いてをする。
同じような構図だが、こちらは奥行が深くよりドラマチックだ。
三船敏郎と仲代達矢のキャラクター対決が、また良い。
二人ともバタ臭い顔立ちの二枚目だが、
仲代の方が鋭い眼光で危険な雰囲気を醸し出していて、
三船は「七人の侍」から比べると随分落ち着いた貫禄を感じさせる。
クライマックスの対決は、やや冗長な気がするが、仲代への敬意の現れだろう。
そして、冒頭で親と揉めていた百姓の息子が登場。
ここで、とっとと家に帰れと促すとは、粋な構成だ。
台詞すらないが、司葉子が美しい!