「リアル風味の剣戟」用心棒 ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)
リアル風味の剣戟
作中に占める時間はごく僅かなれど、リアル風味の剣戟シーンがとにかくカッコイイ。
あくまでリアルっぽいだけで、所詮それは素直に殺られてくれる斬られ役あっての殺陣ではあるのだけれど、それでも勢い良く一息のうちに殴るように撫で斬る剣戟は、よくある日本の時代劇や、あるいは無双アクション系の洋画のそれとは一線を画す説得力がある。
桑畠三十郎は映画や漫画やアニメに出てくる“カッコイイ剣豪像”に近いようでズレてるところがなんとも魅力的。主観で悪と感じた人間の命をゴミとも思っておらず、ド汚く姑息な策を弄して敵対勢力の戦力を削いでいく。
もっとも結局は1対多数の状況を力技でねじ伏せていたり、金に執着するようで結局世直し行為をして去っていく様には、釈然としない印象も残る。高潔さと粗暴さを併せ持つ稀有なキャラクター。
実際の江戸末期の宿場町がこのような雰囲気であるかどうかは専門家でないのでわからないが、しかしこれまで観たどの映画やドラマよりも現実感のあるものに感じられた。きっと200年前はこんな街が日本のどこかにあったのだろうと否応なく信じさせる何かがある。きっとマクロだけでなくミクロな美術や演出にも、凄まじい執念じみたコダワリが宿っているのだろうと思う。村中を駆け回る『七人の侍』と違って、舞台は大通りから殆ど動かないのに…。
無料で浪人に白飯食わせる余裕がある飯屋。愛すべき偏屈オヤジが、本作のヒロインなのだ。
悪人どものキャラクターもどこか憎めない。棺桶屋の小市民感。おりんの大阪のおばさんのようなバイタリティ。どこか悪になりきれない馬目の二代目も無残に殺される。いかにも田舎ヤクザの親分といった風の丑寅。スカーフ巻いた鉄砲の人。いずれもゴミのようにアッサリ死んでいくのだが…。それもいっそ心地よい。
ヤクザ同士の抗争も結局焼き討ちでアッサリ決着する。なんだよ最初から勝とうと思えば勝てたんじゃないのか?…などという突っ込みも野暮なのだろう。田舎の権力者同士の争いとは、不文律のルールの上でねちっこくちちくり合うように殺し合う、腐った騎士道精神のようなものに支配されたものなのだろう、きっと。