劇場公開日 2018年10月19日

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「疑いという恐怖、腹の底に潜む本音」遊星からの物体X ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0疑いという恐怖、腹の底に潜む本音

2020年6月14日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

未知の恐怖と対峙する時、皆で力を合わせて挑むということは綺麗事なのかもしれない。ましてその戦う相手が未知の物体が誰かに寄生・擬態するとなれば、誰に対しても疑心暗鬼にならざるを得ない。

公開は1982年と35年以上も経つというのに、クリーチャーは当時の観客の度肝を抜いたに違いないと思えるほどのグロテスクさ。しかし、それをこれ見よがしのモンスターホラーにはせず(しかし、見せるべきところでは惜しみなく見せている)、恐怖下に置かれた人間たちの群像・心理劇に仕上げたところこそが、この作品が長く語り継がれている所以であろう。

仲間の一人が未知の物体が擬態したものと分かるなり火炎放射器で焼き払う者。それをした相手を仲間殺しだと責める者。皆が皆を責め合い、疑い合い、罵り合い、果てには主人公の言動にさえ、我々観客も疑いの目を向けて見始める。従来のモンスターホラーのように、一人、また一人と姿を消していく恐怖とは異なった人間模様の描き方は、その後多くのホラー映画に影響を与えたことは間違いない。

「怖いものは見えないからこそ、怖い」というのはホラー映画の鉄則である。人に擬態した未知なる物体の姿が見えないのと同様に、人間の心理も見えるものではない。そう考えると、この物体の正体というのは誰もの腹の底にある黒い本音のメタファーなのかとさえ思えてくる。そのことを見事に描いているが故に、様々な憶測を呼んだラストシーンも鑑賞後の余韻をもたらせるのだろう。冒頭から流れる不気味なテーマ曲も含めて、“疑い”と“本音”という誰もの腹の底に潜む“物体X”の恐怖を楽しむべき一作である。

Ao-aO