赤ひげのレビュー・感想・評価
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黒澤ヒューマニズムの集大成
山本周五郎『赤ひげ診療譚』の原作を基にして黒澤明監督が映画化したヒューマニズム溢れる人情ドラマ。一度は観ておきたい名作中の名作であれこれか語るまでもない。個人的に苦手な白黒の時代劇なのであえて評価しません。
(午前十時の映画祭にて鑑賞)
2021-132
素晴らしい人情物語
午前十時の映画祭11にて。
江戸時代、長崎で医学を学んだ青年保本は、医師見習いとして小石川養生所に住み込みとなった。最初は養生所の貧乏臭さや無骨な所長の赤ひげに反発していた保本は、養生所で禁止されてる酒を飲んだり、決められた医師の服を着なかったりと、クビにされる事を望んでいた。しかし、赤ひげの診断と医療技術の確かさを知り、人を想う心の暖かさに触れ、また彼を頼る貧乏人を治療する姿に次第に心を動かされ、赤ひげを慕うようになる話。
赤ひげの素晴らしさに感銘を受けた保本の成長物語だと思った。
赤ひげ役の三船敏郎と保本役の加山雄三が素晴らしくて、3時間と長いのに全く長さを感じなかった。
また、女優陣では、お杉役の団令子、おなか役の桑野みゆき、まさえ役の内藤洋子、金持ちのお嬢役の香川京子など、美しくてこの素晴らしい作品に欠かせない好演だった。他にも憎たらしい娼家の女主人役の杉村春子も良かった。
それと、特に、おとよ役の二木てるみが魅力的だった。
56年も前のモノクロ作品だが、今観ても素晴らしい作品だと思う。大スクリーンで観れて感激でした。
赤ひげがかわいい
豪放磊落と言いたいが、患者の心情を見抜き、適切なケアをする繊細な神経を持っている赤ひげ。
細やかな処置をする割には無愛想。
いつも怒っている。
何に?
貧困と無知に。そして、その前には、自分の医学の術など、砂漠に巻く水のような無力感に。
開発途上国と言われる地域で活動しているNGO達を思い出した。
医療も大切だけれど、まず病気にならない環境を作ろう。
そのために、現地で活動する保健ワーカーを育て、識字率を高め…、清潔な水を確保し、栄養価のある食べ物を栽培し…。
そのようなサポートがない中で、孤軍奮闘をしている診療所、人を見ずに病を診る医者ではなく、病を通して人どころか社会をみる医者のいる診療所を起点とした物語。
赤ひげを軸とし、新米医者・保本を狂言回しとして、その間を取り持つ先輩医師・森を配して、貧困の中で、そこで生きる人々の人生を、オムニバスのように、少しずつ絡めながら描いていく。
原作未読。
性的虐待を受けたと訴える女性の症状に対して、「そんな経験をした人はたくさんいる。けれど、こんな症状を持つのはこの女性だけだ(思い出し引用)」と言い切る。”そんな経験をした人”がたくさんいる状況!!!この一言で、この映画に描かれている庶民がどれだけ人権をないがしろにされているのかを表現してしまう、その脚本!そんな風に簡潔に表現するところと、たっぷり時間をかけて表現されるところの、取捨選択、テンポが秀逸。
ごく自然なふるまいと、舞台を見ているような二人の立ち位置(保本と狂女、佐八とおなか、保本とおとよ)、独演劇場を見ているような独白(佐八やおくに、独白はないけれど六助)の緩急。診療所医師の食事風景は『楢山節考(木下監督)』を思い出してしまった。
そして、光と影を最大限に活かした場面。
佐八の臨終ー本当におなかが来ているのではないかと思ってしまう。
おとよが診療所に来た最初の夜。狐憑きを思わせる。
井戸。この世とあの世を繋ぐもの。井戸をのぞき込む女たちから、井戸の水面に映る女たちに映像がかわる場面。この世とあの世がひっくり返ったようだった。
これらの脚本・演出・映像をとっぷりと堪能させてくれる役者たち。
豪華絢爛、大御所たちをこれでもかとふんだんに使う。ウォーリーを探せ状態。お一人お一人を絶賛するとそれだけで字数オーバーになりそうなほど。
そんな俳優たちの中にあって、おとよを演じた二木さん、公開当時16歳、長坊を演じた頭師氏公開当時10歳が、少しもひけをとらない演技で感動させてくれる。
そして音楽。
圧倒的貧困。
義理やいろいろな思惑が絡んで思うとおりに行かず、背負ってしまう業。
つらく苦しい話がベースだが、絶望だけでは終わらない。
そして、淡い恋物語が花を添え、全体を通して新米医師の成長譚として綴られ、未来を感じさせてくれる終わり方。
それにしても、赤ひげがかわいい。
聖人君子。仏。このような立派すぎる人の話だと、へたをすると、そのりっぱさが鼻について嫌味にもなろう。
だが、赤ひげからは嫌味さは感じられない。持ち上げられれば照れ、わざと自分のダメな部分を明かす。一生懸命、自分に対する称賛・権威を振り払おうとする。その様がかわいい。応援したくなってしまう。
この人物をこのように愛らしく演じられる、三船氏の器の大きさ。
この映画の一番の魅力はここだと思う。
この時代の俳優は本当に凄い。主役級のみならず脇を固める役者達の味わ...
貧困と差別の社会に対する人道主義を問う黒澤芸術の完成度とその表現力
享保の改革で設置されて約100年後の文政の江戸時代、1820年代後期の小石川養生所を舞台にした新米医師安本登の成長物語。黒澤監督含む4人体制のシナリオ執筆に2年の歳月を費やす労作にして、内容の濃いエピソードの連鎖に平明な人道主義を構築した力作。当時の医療技術の実態を最小限の説明に抑え、貧困と差別の社会に対する問題提起を主題として、その模範的人間像を赤ひげこと老医師新出去定の言動で描く。有名な(解体新書)が刊行されて50年が経ち、シーボルト来日で齎されたオランダ医学が長崎で発展し始めた時代背景は、二次的要素に止まる。唯一麻酔なしの開腹手術が医療治療の描写だが、主人公安本の臆病さや未熟さを意図した場面になっている。
座敷牢に隔離された色情狂的体質の若い女のエピソードでは、女性の色気に惑わされる男のしがない性(さが)を露呈する。香川京子の鬼気迫る演技が素晴らしい。それに続く蒔絵師六助の臨終場面も凄い。癌末期の壮絶な症状描写には死を悟った人間の尊厳があるが、死後の娘おくの懺悔の告白で分かる六助の不幸な晩年の後付けが更に暗く重々しい。また黒澤作品では珍しいと思われる男女の恋愛悲話を車大工佐八で描くも、妻おなかの行動に話の作為が際立ち説得力が弱い。作品で一番の山崎努の名演がその欠点を補っているものの勿体ない。人格者赤ひげのお金に容赦ないふてぶてしさや、岡場所での用心棒との格闘で見せる武術の高さは、矛盾した人間の設定に沿ったエピソードになっているが、完璧すぎる印象を与える。赤ひげが自己否定し諭しても、安本からは全てが理に適った模範的な人物に見えるからだ。赤ひげ演じる三船敏郎の演技にどこか不自由さを感じる。
其々に練られ完璧に構築されたエピソードの中で最も優れているのが、ドストエフスキーの(虐げられた人々)を引用したと云う、おとよと長次のお話だ。安本と交互に看病して培われるおとよとの人間関係もいいし、一家心中で瀕死の状態にある長次を救うべく井戸の底に叫びかける賄婦たちとの交流も微笑ましい。また、一番可笑しかったのは、娼屋の女主人きんを追い払う賄婦たちの行動にある演技の本気度である。名実共に大女優の杉村春子を、いくら演技と云ってもベテラン女優たちが力一杯に叩き付けるとは、黒澤演出の悪戯を感じる。その上で、滅多に観ることのないシーンに驚きながら、杉村春子の役者魂に感服するのだった。また、両替屋和泉屋徳兵衛に志村喬、安本の両親役に笠智衆と田中絹代を持ってきたのは、流石に黒澤監督の力であろう。日本映画の巨匠小津と溝口に敬意を注ぐ映画人の、継承者たる覚悟を推し量る。
三年間の長崎留学の不在で許嫁に裏切られた安本の実情が徐々に解る、映画的な語りと表現が素晴らしい。妹まさえを何回か登場させてからの種明かしが予想通りではあるが、流れは自然である。御目見医の出世を断り、まさえに承諾を取るところから、ラストシーンの赤ひげに付いて行く安本の後ろ姿は、映画冒頭の後ろ姿とは別人になった安本の成長を見事に表現している。完璧を追求する黒澤監督の映画作品に懸ける執念の凄さと、人道主義を師弟対比で描く普遍性にある分かり易さ。公開当時に”泥臭いヒューマニズム”の賛否を受けたのも頷ける。役者は加山雄三以外文句なしの演技を見せつける。
「赤ひげ診療譚」山本周五郎の原作も良かった記憶。 その周五郎に原作...
これこそ映画の世界遺産です
文句のつけようはずもありまん
ただただ感涙あるのみです
物語は一言でいえば新任の若い医者の成長物語です
その主人公に加山雄三を配役する眼力は流石というしかありません
物語は、狂女、六助の娘おくにと三人の子供、佐八とおなか、12歳のおとよ、7歳の長坊の五つのエピソードで構成されます
おとよと長坊の二つが休憩を挟んだ後半になります
狂女の登場の鳥肌のたつ怖さはどんな怪談よりも怖い
おくに役の根岸明美の超がつく長台詞シーンは驚嘆、圧巻で度肝をぬかれるばかりの名演です
異常な緊迫が画面に溢れています
おとよと長坊の二人は病床での眼の光にはまいりました
神ががった演技が山のように全編に満たされています
そこに黒澤監督の演出が炸裂するのですから、強烈な映画体験と言うしかありせん
劇中の季節が初冬に始まり真冬を経てラストシーンは積雪の溶ける明るい日射しの春で終わります
主人公の心象の変化を季節で表現させているのはお見事という他ありません
井戸の水面に水音がして波紋が広がって、長坊が命をとりとめたことを実感するシーンも流石です
これこそ映画の世界遺産です
黒澤映画のベスト3くらい
貧困と無知との戦い。全ての病気に対して治療法はない!と断言する新出去定。病気の影には政治が絡んでいるとのことだ。終始、貧乏人の味方である人情医師赤ひげだ。
3時間にもわたる長い作品ではあるけれど、前半2時間、後半1時間と雰囲気が全く違うところがいい。前半では山崎努と桑野みゆきのエピソードが凄い。陰影を上手く使った照明技術で頬のこけ方が怖いくらい。逆に後半の中心になる置屋の12歳の娘二木てるみに当たるキャッチライトが野性味を醸し出し、全体的に照明技術が印象的でもあった。
子ネズミ長次の似たようなエピソードは今ではあちこちで使われてるけど、みなこの映画を参考にしているのかもしれないなぁ。
「後悔するぞ」とか、印象に残る台詞は人によって違うと思うけど、幼い娘が犯されるなどの事件を聞くたびに「よくあることだ」と言い捨てる赤ひげが印象的だった。江戸時代ってのは日常茶飯事だったのだろうか。
素晴らしい映画
DVDにて。前情報なしに初めて観た。社会派映画だった。しかしさすが黒澤。しっかりエンターテインメントとして仕上がっている。日本がダメダメな今こそ、この映画を観て、我々は江戸の統治に学ぶべきではないか。
劇中の小石川養生所は、あの当時(1700年代)、目安箱から集められた民の意見に基づき、幕府主導で行なわれた貧困対策。これにまず驚く。同時代の他国ではありえない。日本流の民主的統治は上手く回っていた。前々から感じていたが、日本の最盛期って実は江戸時代だったんじゃないかと思う。(そうならないことを願うが笑)
我々の民主主義精神のルーツは、この江戸時代におけるトップ主導の民主的統治にある。しかしこれは、欧米の共同体主導の民主主義とは全く食い合わせが悪い。
明治政府は日本と欧米の民主主義の違いが分かっていた。だから明治維新は成功した。しかし戦後の日本政府は、この違いを忘れた。そして今こそ、思い出すべきだ!
余談ですが、小石川養生所の設置は大岡忠相の主導により行なわれたが、その貧困の原因である享保の改革の大失敗を引き起こしたのも大岡忠相(笑
・・・と、映画の話と大分逸れたな。
『生きる』に繋がる
思ってたより退屈でした。 赤ひげ先生はかっこいい。 地廻りをボコボ...
桑野みゆきと二木てるみ
テレビドラマを見ていて、またもや観ることに。
女優中心で見たが、先ずは狂女をお世話する団令子、狂女の香川京子、自責の念から死を選ぶ桑野みゆき、娼家の鬼婆の杉村春子、登の母親の田中絹代、床磨きの二木てるみ、そして登を裏切った姉の代わりにかいがいしく世話をする内藤洋子は大ファンだった。
黒澤の集大成のような巨編だが、これだけの作品を今の映画人にも作ってほしい。
人生の出発点と終点
総合85点 ( ストーリー:90点|キャスト:80点|演出:75点|ビジュアル:65点|音楽:65点 )
医者に行きたくても行く金もない貧困層に尽くす医者の話かと思いきや、必ずともそうとも言えない。むしろ治療にかける医術の話、特に医療の技術的な話は控えめで、ただそこに生きる人々の姿を養生所を通して見せる形になっている。
それでその人々だが、それぞれの抱える重い事情と背景がしっかりと描かれていて引き付けられた。もうどうしようもない半生を背負ってやっとここに流れ着いた最後の場所という雰囲気が出ていた。ここは単なる養生所ではなく、働いている人も治療を受ける人も、ここで人生を終えたり人生を始めたり人生を賭けたりする場所だった。インドでマザーテレサが誰も気にかける者も無いままに路上で死ぬ人々の手を握ることで孤独から解放するというものに近いような、人々の救済を感じた。
あえて挙げる欠点としては、良い人が良くて悪い人が悪いと簡単に分けられているところ。これだけたくさんの人が集まる場所だと、ただ食いっぱぐれた人やいい加減な人や小ズルい人がもっと色々といてそのような人の起こす問題に忙殺されそうなもの。しかしいわゆる味方側の人々はいい人が多くて内部の管理がすごく簡単になっていたのはやや都合が良い。
それから医療に関しては、医療が大変なのだという描写からの視点であって、医療のためにどのような努力、特に技術的な努力をしているのかという視点が少なかったかと思う。医者として具体的に何をやったかということにおいて、『仁』のように梅毒患者に対して薬を作ったというようものが含まれていても良かった。
あまりにも現代的なテーマ
大きな地震(おそらく安政の大地震であろう)の後の格差社会を描く。時は幕末なのだが、まるで3.11後をテーマとしたかのような現代性あふれる問題提起である。
災害により最も被害を被るのは貧しい者たちであり、貧困は身体ばかりか心の健康も蝕む。これは安政でもなければ、この作品が撮られた昭和でもない。まさしくこの平成の日本を描いている。
そう思えるほどのこの映画の今日性に戦慄すら感じ、心身の健康は金次第であるという身も蓋もない普遍的な視点を貫いたことに快哉を送りたい。
そうした物語の内容はともかくも、豪華な出演者の顔ぶれもまた観ていて楽しい。山崎努の熱演は瞼の裏にしばらく残り続けるし、桑野みゆきはとても可憐で感情移入するなというほうが無理である。
また、おとよと長坊の子役も上手い。不憫で、愛らしい彼らが観客の心をかっさらってしまう。
惜しむらくは、杉村春子にコケティッシュな芝居を存分にさせていないところだろうか。せっかく大根で杉村を殴らせるのだから、彼女にはもう少しスクリーンの中で動いて欲しかった。この女優は台詞ではなく体の動きで芝居をするのだから、大根を飛び散らかした頭をどうにかして欲しかった。あっさりと次のカットへ変わってしまったが残念。
息子と観ましたが
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