「けっこうよかった」ミツバチのささやき 吉泉知彦さんの映画レビュー(感想・評価)
けっこうよかった
大学で上京して見たと思ったら、85年の公開なのでそれだと高校生だからシネウインドで見たのかな。東京で名画座で見たのかもしれない。73年の映画だったことも初めて知った。当時はとても退屈でちっともいいと思えなくて、頑張って背伸びして見ていた。
30年越しで、淡々とした映画であることは分かってますよ、退屈かもしれないですよ、という気持ちで臨んだら、けっこうサスペンスな展開もちょっとあってつまらなくなかった。何より同年代の子どもがうちにいるのでところどころ、やめてーと思う。小屋で危険人物と交流したり、本当にやめて欲しい。ナウシカが子どもの王蟲を飼っていた場面を思い出す。ベッドをぴょんぴょん跳ねて遊ぶとか、木の枠が壊れかかっている。うちのベッドは長年子どもが跳ねて遊んだせいで留め具が砕けた。
ただそんなサスペンスフルな場面は短い。アナが小屋で男の血痕を触っているとお父さんに見つかる。アナはその場から小走りで逃げだす。お父さんは黙ってそれを見送る。なんで捕まえたり追いかけたりしないのだろうと思っていたら、夜になって捜索隊が出動する。お父さんは放置したまま帰宅したのか。お母さんは捜索をそっちのけで物思いに耽り、手紙を燃やす。アナが見つかってもお医者さんとちょっと話すだけでそれほど興奮せず、落ち着いている。
主人公の両親の関係があまりよくないことや、お父さんは養蜂が本業ではなく、なにか儲かる商売をしていることなどがうかがえる。農家にしては金持ちだ。
言葉でなく絵面や音での表現が格調高い。何より子どもが、子どもらしくて自然だ。子どもが余計なことしかしない様子が描かれている。
終盤、終わりそうでなかなか終わらない。
そんなに面白いわけでもなくて、面白がるような作りでもない。しかしとても印象深い。すごく面白がろうと思って見たらとてもつまらないだろう。淡々とした流れに身を任せるような気持ちで見るといい。