「マグの取っ手に宿るやさしさアクション」魔女の宅急便(1989) 弁明発射記録さんの映画レビュー(感想・評価)
マグの取っ手に宿るやさしさアクション
公開当時に劇場で観てそれ以降もテレビ放送のたびに観て何度目かなんだが劇場で観るのは本当に久しぶりかも。ありがとうさよなら丸の内東映。
あらためて観るとやっぱり動きがすごい。ともすれば地味で面白みのないものになりそうなのに宮崎駿の動かし方が凄すぎるからそれで名作になってる。
例えば旅立ち前。
最初の風に揺れる草木の動きもすごいが。
地味に感心したのは今夜出発すると決めたキキが駆けていく際になんかわざわざ花壇か何かの壊れた箇所をくぐるアクションがあるところ。
あんなの作画コストを考えたらやらなくたっていい。でもあのアクションがあることで「近道らしき場所を知るほどキキにとって馴染みの町」であることが視覚的に分かる。
例えばパパがキキを高い高いする場面。一旦キキの体を持ち上げようとするもうまく持ち上がらないので腰を入れて下から持ち上げている。
あのアクションを描くことでパパにとってキキがいつの間にかかなり大きくなっていた、ということが分かる。父親の愛情のみならずあの場面に至るまでの過去も想像できるような動きになっている。
オソノさんが最初にキキを迎え入れてコーヒーを出す場面。
あそこもわざわざコーヒーを注ぐアクションを入れるだけでなくキキの前に一旦マグを置いてからわざわざ持ち直してマグの取っ手をキキに向けている。
あんな面倒な小アクションやらなくたっていいのだが。あの「取っ手を相手側に向けて取りやすくする」というアクションが入ることでオソノさんのやさしさが強調されるんだ。だから観客は主題歌どおりの『やさしさに包まれたなら』な気分になる。
これまで何となく観ていた重い荷物を空飛びながら運ぶ場面。
あそこも「重くて飛ぶコントロールが難しくなっているので建物を蹴って勢いをつけながら飛ぶ」という描写をわざわざやっている。
あのリアリティの積み重ねよな。
そもそも飛び方も横回転や縦回転に上下左右の動きを混ぜてかなり面倒な動きをさせている。それこそCGでもAIでもやるのが面倒な動き。
本当によく動かしている。だからこそ40年近く経った平日夜でも満席になるんだな。
今観ると印象よりパンチラが多いし、プロペラつき自転車の2人乗りは迷惑行為だし、ヒッチハイクも危険なイメージついてるし、あの当時だからできた描写が多い。それも悲しい時代の流れだ。
あと名探偵コナンがすっかり根付いた今においてはキキもウルスラも思ったより「声がコナンじゃねーか!」と感じる瞬間があって。特に笑い声や声を張り上げる時に。この感覚も今だからなんだろうな。