劇場公開日 1985年12月24日

「心の中に温かいものが」マイライフ・アズ・ア・ドッグ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

3.0心の中に温かいものが

2014年9月28日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

楽しい

幸せ

 どうしてラッセ・ハルストレムの作品を観ると心の奥底に温かいものが残るのだろうか。あまり恵まれはいない境遇の主人公と、彼を取り囲む頑固で変わり者の人々。そして、居住地が定まらず流浪をしている人物の存在。こうした構成は他の作品にも共通している。本作や「ショコラ」では、主人公が放浪しているのだが、「ギルバート・グレイプ」では主人公の前に現れる恋の相手が放浪している。そして、物語の最後には主人公のギルバート自身も放浪の生活を選択するのだった。
 カメラワークをとっても共通している特徴を上げることができる。まず、屋内のシーンに出てくる連続したドア。隣の部屋へと続くドアが解放されていて、その奥にもう一つのドアが見える。狭い屋内だが奥行きを意識したショットで、深く印象に残る。
 次に、登場人物の人生の転機につきものの大きな炎。火事はハルストレムの作品では重要な要素である。グレイプ家が燃えるのも、自ら火を付けたとはいえ、結果としては火事である。火事をきっかけに登場人物たちの生活には大きな変化が起きる。大きな炎は物語を前へ進める強力なエンジンの役割をしている。
 そして、高みにいる子供を見上げる大人たち。給水塔、ロープウェイを下から見上げるのは大人たちなのである。子供の自由な意志と、それを見上げているしかない大人たち。大人の生活には様々な制約がついてまわり、その中でおとなしく暮しているはずの子供たちは、機会さえ得られれば手の届かないところへと行ってしまう。子供に対する不安と羨望と頼もしさ。ラジオ中継でスウェーデンのボクサーが勝ったことに町中が喜んでいるラストのシーンは、いみじくもその子供の未来や可能性への大人の感情を表してはいないだろうか。

佐分 利信