「幸福なコミュニティとは」マイライフ・アズ・ア・ドッグ kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
幸福なコミュニティとは
悲しくもありますが、幸福な映画でした。
結核の母、歳の近い兄と3人+ワンちゃん1匹と暮らしているイングマル。家族の機能が弱まっているせいか、年齢にそぐわずおねしょするなど情緒に影響が出ています。辛くなると宇宙に打ち上げられた犬を想像し、自分はあの犬よりマシだ、と自分自身を慰めるという、厳しい人生を歩んでいます。
母の病が重くなったため、田舎に住む母方の叔父に一時的に引き取られることになり、叔父が住むガラス工場の村でさまざまな人に出会っていくお話でした。
叔父が住むガラス工場の村が本当に素晴らしいです。
誰も排除せずに受け入れる余裕があります。舞台は50年代末ですが、今流行りのダイバーシティを地で行くコミュニティです。みんな楽しそうに生きているし、精神的に危うい人も、イザとなれば村人たちが抱える雰囲気もある。
イングマルは大好きな母と犬と別れてこの村に来たのですが、どんどん元気になるのがわかります。サッカーやボクシングを覚えたり、男装の美少女サガや優しいパツキンねーちゃんと仲良くなったりと、イングマルは宇宙犬のことなど思い出すヒマなどありません。
この村は、所属する人たちを抑圧しないため、ありのままの姿で在れるのだと思います。だからイングマルは自然と回復していく。
ここに、人が幸福に生きたり、多様性を許容できたりするコミュニティのヒントが描かれているように感じました。もちろん、こんなに善人ばっかのコミュニティはないですが、この村に住めば、真性の悪人以外は割と穏やかになっていくんじゃないかな、と思います。
これからの時代は、幸福の要因が個人因子よりも環境因子の方に重きを置かれるようになってくるのでは、なんて考えています。幸福なコミュニティに所属することが、個人的な幸福のベースとなるのではないでしょうか。フィクションから現実へ、そのままフィードバックはもちろん不可能ですが、エッセンスを学ぶことはできそう。
前世紀の作品ですが、未来を生きる我々に示唆を与えてくれる映画なのでは、などと感じております。