「若きジュリア・ロバーツの魅力が炸裂する、社会派スリラーの佳作」ペリカン文書 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
若きジュリア・ロバーツの魅力が炸裂する、社会派スリラーの佳作
【イントロダクション】
ワシントンD.C.で起きた最高裁判事2名の暗殺事件について、法学生の主人公が一つの論文を書いた。やがて、論文内で展開されている仮説が、事件の真相と黒幕に迫っているとして、筆者の主人公は謎の勢力から命を狙われる事になる。原作は、ジョン・グリシャムによる同名リーガル・サスペンス小説。監督・脚本は『パララックス・ビュー』(1974)、『大統領の陰謀』(1976)のアラン・J・パクラ。主人公ダービー・ショウ役にジュリア・ロバーツ。事件を追うヘラルド紙の記者にデンゼル・ワシントン。
【ストーリー】
ワシントンD.C.で、最高裁判事のローゼンバーグとジェンセンが何者かに暗殺される。かつてローゼンバーグの下で事務官をしており、今はニューオーリンズの大学で教授をしているトーマス・キャラハンは、彼の訃報にショックを受ける。キャラハンの生徒であり恋人でもあるダービー・ショウは、事件の背景に興味を持ち、独自の調査によりある仮説を立て、“ペリカン文書”のタイトルでレポートとして提出する。
レポートを手に、ローゼンバーグの葬儀に出席する為ワシントンを訪れたキャラハンは、友人であるFBI法律顧問のバーヒークと再会する。キャラハンは、ダービーのレポートを「よく出来た仮説」としてバーヒークに手渡し、彼の手からFBI長官ヴォイルズに渡される。ヴォイルズは、判事暗殺事件の警護に関する不備を大統領主席補佐官コールから非難され、意趣返しとしてレポートを彼に見せ、その内容を基に捜査を進めると告げる。
数日後、キャラハンはダービーとレストランで夕食を共にしていたが、泥酔したキャラハンに呆れたダービーは、自宅まで歩いて帰ると、キャラハンと別行動を取ろうとする。キャラハンは車に乗り、エンジンを掛ける。刹那、車は爆音と共に爆発し、キャラハンは命を落としてしまう。ダービーは偶然にも難を逃れたのだ。
恋人の突然の死にショックを受け、自らも命の危機を察知したダービーは、バーヒークに連絡を取り、キャラハンの死を伝える。バーヒークは、彼女を保護しようと接触を図る。コールからレポートを受け取った大統領は、その内容が公表されれば、自身の大統領選に不利になるとし、ヴォイルズに捜査の中止を要請する。
一方、ワシントン・ヘラルド紙の敏腕記者グレイ・グランサムは、ある朝自宅の電話に“ガルシア”と名乗る人物から連絡が入る。彼は法律関係者で、「判事殺害について重要な情報を知ってしまった」と言う。以降、度々連絡を寄越すも、真実を公表する決心が付かないでいるガルシアをグランサムは逆探知で追跡し、彼の顔写真の撮影に成功する。時を同じくして、グランサムの元にダービーから連絡が入り、ペリカン文書の存在について聞かされる。
【感想】
少々長尺ながら、アラン・J・パクラ監督らしい硬派な社会派スリラーに仕上がっている。真相自体は、この手の作品によくある利権と金絡みのもので新鮮味は薄いが、事件に巻き込まれる登場人物達の魅力が、最後まで飽きさせずに見せてくれる。
ダービー・ショウ役の若き日のジュリア・ロバーツの笑顔が眩しい。生活感のあるパーマ掛かったロングヘアから、ショートカットのカツラを被って変装する姿、法律事務所を訪れた際のバッチリセットされたパーマ姿と、様々な彼女の魅力を堪能出来る。
同じく、若き日のデンゼル・ワシントンの姿も新鮮で、新聞記者らしく作中何度かメモを筆記する様子が映し出されるが、どうやら字はあまり上手くないよう(笑)
この2人がコンビを組む事になるのは、物語も中盤に差し掛かった辺りと遅めではあるが、以降は抜群のコンビネーションで物語を引っ張って行ってくれる。
潜伏先のホテルで、国外逃亡を希望するダービーにグランサムが言った「正義が潰えたら、彼(キャラハン)は喜ぶか?」という問いに対し、ダービーが「25歳の私を見たいはず」と返す様がオシャレ。
この台詞が、終盤でいよいよ命の危機だと察したグランサムが、ダービーの希望通り国外逃亡を促す際の、「25歳の君が見たい」という台詞に繋がるのも良い。
内容とは別に、個人的に印象的だったのは、キャラハンが講義で語った台詞だ。
「議論が脅迫に、正義が暴力に変われば、感情が理性を支配してしまう。感情と私欲は自由を脅かす」
クライマックスで、ヴォイルズが部下のルパートにダービーの監視と警護を任せていた事が明かされ、中盤で偽のバーヒークに扮した殺し屋からダービーを救ったのも工作員によるものだと判明する。しかし、それならば銀行の地下駐車場でも助けてくれても良かったのではないかと思ってしまう。
【総評】
優秀さと好奇心が合わさって、触れてはならない闇に触れてしまうというのは、実は現実味のある話のようにも感じる。本作のように政府が関与し、暗殺を企ててくる事はない“かも”しれないが、世の中には意外と触れてはならない核心部分に触れている人も多いのではないだろうか?
常に不穏な空気が漂う本作だが、クライマックスで形勢逆転してからのダービーとグランサムが各所に電話する姿や、ラストのジュリア・ロバーツの爽やかな笑顔での締めが心地よい。