「私的、ここから始まるヴェンダース」ベルリン・天使の詩 SHさんの映画レビュー(感想・評価)
私的、ここから始まるヴェンダース
ちょうどこの作品と出会った頃、タイミング良く(─まぁそれも映画のプロモーションとか話題性のおかげということもあったと思うけれど─)クレーの素描「天使」に感銘を受けていたわけで、“天使”というその響きに自然と誘われていったような気がします。
モノクロとカラーの対比、内面を言葉で語り尽くすという手法、まだ戦禍を知りまだ分断されていた時代の記録、そういった要素により強く心に刻み込まれた作品となりました。
後にノーベル文学賞を受賞することになるペーター・ハントケの詩的文章の数々は、相当文学的で難しいところもあるのですが、作品の設定と非常にマッチしていて、かなり効果的。難解感じてしまう欧州映画や文学の世界に少しでも近づく良き映画なのかもしれません。同じヴェンダース&ハントケのコンビからなる映画「まわり道」は、かなり忍耐を要してしまうので、この「ベルリン」がいかに巧みで絶妙な構成になっているかがよく理解できます。
サーカスとか“コロンボ”を盛り込んでいるところから、かなりエンタメ性を意識していることが窺えます。ゆえに、ここから始まるヴェンダースは、優しく分かりやすく、ごく自然に見る者の心を掴んでくれるのでしょう。
作品の中で象徴的に登場するヒロイン・マリオン。彼女の存在と、そこから展開する物語もまた作品を分かりやすくしている要素。実際に自分もマリオンにかなり魅せられました。演じるのはソルヴェーグ・ドマルタンで、なんとこれが俳優デビュー作。ヴェンダースの次作「夢の涯てまでも」では主演を務めていてかなり印象に残っているのですが、2007年45歳で早逝(ということを最近知りました・・・)、いろいろと思わされることの多い作品となったわけです。
ヴェンダースの映画をすべて見ているわけでもないし、数多く見ているとはいえ見ているすべてを理解できたり楽しめたりしているわけではありませんが、この「ベルリン」が最も分かりやすくて親しみやすいヴェンダース作品なのかなぁと思っています。