劇場公開日 1972年

「名シェフの作ったご馳走のような作品」フレンジー あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0名シェフの作ったご馳走のような作品

2018年10月30日
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鑑賞方法:DVD/BD

流石はヒッチコック!面白いことこの上ない
無理やりケチをつけるとしたら、ヒッチコック監督作品お約束のすこぶる付きの金髪美女ではなくて、それなり美人の中年女性しか出ないことぐらい
とは言え彼女達も十分魅力的
だから猟奇的連続殺人犯の餌食になる説得力はある
この辺の匙加減は若い頃には理解できなかったことかも知れません

カメラワークがまずもって見事
冒頭の空撮からロンドン名所のタワーブリッジをくぐり抜けるところから驚くのだがこんなのは序の口

第一発見者が殺人現場になにも知らずに昼食から戻り、路地に向かいカメラを素通りして建物に入るシーンではそこから少しの間何も起こらず、観る側に何が起こるのかを十分に想像させたあと、絶妙の間を置いて路地まで悲鳴が聞こえて通行人が驚く様を見せる

次の犠牲者の背後に犯人が立つシーンでは、犠牲者の顔のアップとなって雑踏の音がスッと消え、カメラが引くと彼女の後ろに犯人が立っている
何いう小憎らしいくらいのカメラと演出の相乗効果を上げて見せる

事に次の殺人現場のアパートの2階から狭い階段を後ろ向きに下って、踊り場を曲がって更に下りる、遂には人が行き交う雑踏の大通りにまでカメラが途切れなく一気に後退するシーンはステディカムのない時代にどうやって撮ったのか魔術的で効果満点!

レイプに続く殺人シーンの迫真さ
正にタイトル名のフレンジー!激昂の意味通り
瞳孔を開き舌を長くだして事切れる遺体
証拠を握った死後硬直した指を折るシーンはヒッチコック作品ではあまりない残酷シーン
これを中和するためブラックユーモアもかなり強めに効かせてあり、これも絶妙なバランスで息抜きとして機能しています

出演者全員が演技達者なのは言うまでもない
またイギリスに戻った監督がロンドンらしさを画面いっぱいに繰り広げてくれます
青果市場はコベントガーデンマーケット
築地の様に都心のすぐ近くにあったのですが、今はちょうど豊洲の様に少し都心から離れたところに移転しています
音楽もロンドンらしさが出ており、何より本作の雰囲気に良く合う素晴らしいでき
くどい説明シーンはなくスマートにお話の展開を見せてくれる技は正に素晴らしい腕前の包丁さばきのよう
裁判所のドアを少し開けて判決だけが漏れ聞こえるシーンはお見事この上ない

ミシュランガイドに載るようなレストランな名シェフのご馳走を堪能したかのような満足感が味わえます

あき240