「ケーキがアメリカっぽい」羊たちの沈黙 ヤマサミさんの映画レビュー(感想・評価)
ケーキがアメリカっぽい
なんとなくずっと見てなかったけど、アマプラのサムネがあの「口に蛾がついてる青白い女」ではなかったのでなんとなく視聴。
ハンニバル・レクターが食人鬼なんでしょくらいの前知識。
森の中をランニングする女性と不穏な音楽。なんだか『リターントゥオズ』の雰囲気を思い出す。全然関係ないんだけど。
ジワジワ迫ってくるような音楽、目力を感じる役者の表情、湿っぽい森。オズが1985年、羊が91年。この時代の映画はこういうもんなのかもしれない。
優秀なFBI候補生らしいけどどこか繊細な危うさも感じさせるクラリス。周りの男の視線がいやに気になる画面作り。クラリスの人生はストレスが多そうである。最初はレクターからけんもほろろな扱いをされるけど、執念と知性でくらいついていく様がよろしい。
レクターの上品さも見ていてこころよい。隣の独房の人間を、悪口だけで殺す男。
ホラー映画ってドキ…ドキ…みたいな時間ばかり長くて話が進まないと嫌になるんだけど、この映画は終盤までは頭脳バトルものみたいな感じなので飽きない。常に緊張感のある言葉の応酬だった。
しかし見せ場であるレクターの殺人シーンはちょっと笑ってしまった。十字架みたいに人をぶら下げるやつ、おいっちにおいっちにってセッティングしたのかなあと思うと。
他人の顔の皮を被るのはいいね。人の皮を剥いで云々は漫画や小説ではよく見るけど、実写だとこんな感じかあ~へえ~。肌の表現に気合入っててよかった。
正直事件の謎はずっとわからなかった。謎解きのセンスが私になさすぎる。犯人と最初の女は友達ではない?一方的な知り合い?2人とも裁縫が得意なの?背中をダイヤ型に切ってるのはなんなの?蛾を意識してんのか?
まあわからなくても問題はなかった。
キャサリンが犯人を犬で脅すのがよかった。泣き叫ぶだけじゃなくて努力する人ってすごいよね。ぼくにはとてもできない。
見習いとはいえちゃんと鍛えてるFBI候補生とあの弱そうな男じゃ相手にならなくない?と思ってたらやっぱりクラリスが銃の腕で勝った。努力の勝利。訓練では死角のケアが甘くて叱られてたから、ちゃんと注意してたね。
全体的にテンポがよかったな。クラリスの回想シーンもダラダラせずにパッと終わってた(パッとしすぎて「は?」てなる)(のがいいんだろうな)。
クラリス最大のトラウマである羊のシーンをあえて映像にせず言葉だけでやったのが渋い。
この映画のタイトルは、クラリスのトラウマである羊が沈黙する、つまりトラウマを乗り越えるという意味なのだな。あったかヒューマンドラマだったのか…。
クラリス的にはハッピーなエンドになってしまったのでこの映画どう落とすんだ?と思ったら、そう落とすんだ。レクターへの理解が浅すぎて「友人を夕食に呼ぶ」というセリフをふーんと流してしまった。食べるって意味ね。