「覗き部屋の巧みとパリ、テキサス」パリ、テキサス 雑司ヶ谷主人さんの映画レビュー(感想・評価)
覗き部屋の巧みとパリ、テキサス
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傑作。前半は主人公と弟との長いドライブ、後半は息子とのドライ
ブ、その道中のやりとりや日本ではいられない荒れ地を通る高速道
路も見ごたえがあるが、固唾をのむのは何といっても、深く愛しあ
い傷付け、4年間音信不通で別れていた男女の再会の場面を覗き
部屋に設定したアイディアの迫力だ。
女は相手の男のすがたが見えず、自分の姿しか映らないマジック
ミラーの「鏡」を見続ける。男には女が見えるが相手には自分が見
えていないことを知っていて通話機を通じてしか話せない。もちろ
んたがいに触れあうことは全くできない。男女関係についての実に
巧みな設定だ。覗き部屋の場面で女が一人で画面いっぱいに延々と
映し出される。これはナスターシャ・キンスキーの「濃い顔」じゃ
ないともたないだろう。
ヴェンダースは、この場面をはじめ、八ミリに映し出された団
欒のシーン、息子を学校に迎えに来た真っ新なスーツ姿のトラヴィ
スと息子が道路を挟んで下校するシーンなど巧みな映像で我々の
目を魅了する。だが、ただ写真とトラヴィスの思い出話にしか出て
こないパリ、テキサスがなぜ題名なのか?それは自分を失ったトラ
ヴィスが自分を取りもどすためのかけがえのない唯一の場所だから。
彼はその場所で誕生し、その場所での再生を目指す。
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