劇場公開日 1976年11月20日

「サスペンスの皮を被ったコメディ そして隠された政治性メッセージ」バルカン超特急 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0サスペンスの皮を被ったコメディ そして隠された政治性メッセージ

2018年12月13日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

これは面白い!
ギャグとウイットとユーモアがこれでもかとてんこ盛りです
正に何分かに一度はくすりとさせます
ほとんどサスペンスの皮を被ったコメディです
敵に襲撃されてレフリーなのか?とか言われるシーンや、隣のコンパートメントでヒロインがホントに体操していたのには笑ってしまいました
ですから、サスペンスは突っ込みどころが一杯ですがそこはそれでよしという態度で観るべきかと思います

1938年製作ですから第二次世界大戦勃発の前年
その国際謀略渦巻く欧州情勢の当時の雰囲気を濃厚に伝えてくれます

バルカンと言えばあの名作「ユリシーズの瞳」が思い出されます
あの熾烈な戦争の十字路のシリアスな物語の始まりよりもさらに数年昔のお話がこのようなコメディタッチのサスペンスとは強烈な皮肉です

つまり英国人からすれば、バルカンなぞ所詮他人事ということです
お気楽な二人組の英国人の存在がそれを見事に象徴しており、これで良いのかという政治的皮肉も感じることができます

また不倫旅行中の英国人弁護士はチェンバレンを連想させる平和主義者
正に「戦争するくらいなら殺されよう」を身を持ってやってくれます
台頭するナチスドイツへの対決を鼓舞するシーンでもありました

バルカンという戦争の火薬庫から英国に向かってひた走る超特急とは、第二次世界大戦勃発への導火線のメタファでもあります
第一次世界大戦はバルカンの一発の銃声から始まったのを想起せよと暗に言っているのです
徹頭徹尾コメディサスペンスの娯楽作品ありながら、このような時代のメッセージ性を内包させているとは流石はヒッチコック監督と言わざる得ません

フロイ老婦人は素晴らしい名演技
ラストのオチには、そうと分かっていても思わず拍手です

本当に見応えある「娯楽作品」です
ヒッチコック監督の手腕見事です
名作中の名作です

あき240