「反撥と賛歌。」ハロルドとモード 少年は虹を渡る ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
反撥と賛歌。
名画座にて。
H・アシュビー初期の傑作だそうだが、私はぜんぜん知らなかった^^;
1971年はアメリカン・ニューシネマ全盛時代。ヒッピー全盛ともいえる。
その思想をこれでもかと汲んだ描き方(音楽に至るまで)に懐かしい~と
思うか、え?こんな作品観たことない!と思うか、年代で様々だと思う。
いずれにせよ、今じゃこんな作品は観れないだろうな^^;と思う。
暴力と反撥に彩られた作品群の中では異彩を放ったんじゃないだろうか、
と思える作品だった。もちろん背景にはそれがあるにせよ、明らさまな
描写で描いてはいない。どちらかというと、その行為の背後にあるのは、
人生賛歌、この時代を生きるためのあくなき探求心を煽る作品なのである。
そしてその行為を青年に促すのが、79歳の老婆だというところが面白い。
ハロルドは一見なんの不自由もない家庭で育ち、親から全てあてがわれた
ような生活をしているにも拘らず、生きることへの価値を見出せていない。
自殺願望だけが先行し、何度も(ジョークで)繰り返すものの、実際に行動を
起こすことは出来ず、他人の葬式に参列しては欲を満たしている変わり者。
そんなハロルドの前に現れるモードという(葬式に参列している)お婆ちゃん。
何だ!この婆さんは!(汗)と思うほど彼女のぶっ飛んだ行動には恐れ入る。
まだ青年のハロルドの思想をぶった切るような^^;破壊的な行動力に次第に
ハロルドは惹かれていくのだが…。
何といっても音楽がいい!キャット・スティーブンスによる数々の挿入歌
(しかも字幕付き)がやたらと流れる導入部、今時これほど音楽をかき鳴らす
ドラマは映画ではほとんど観ない…(こないだ観た角川の映画であったな^^;)
俳優の演技を邪魔する音楽とは違い、その風情にピタリと合う選曲が為され
あの時代を彷彿とさせる(イージー・ライダーの選曲もこんな感じだったですね)
反撥を胸に、活き活きと自由を謳歌しようとする若者たちが横行した青春時代、
なぜ79歳のお婆ちゃんにそんな行動ができたのか…。
二人が親密になった後半、サラリとモードの真実が映し出され、
彼女の本意が明らかになる。身を持って生きることの素晴らしさをハロルドに
訴えた(つもりだと思う)モードは、自身も生き長らえて良かった…を胸に、あの
最後の決断をしたのだろう。その真意があの時点でハロルドに理解できたかは
分からないが、とりあえず彼の選択は…あれでよかったなと思う。
いずれハロルドが歳をとって、自分の子供に手を焼いて^^;、困った、困った、
この子にはどう生きる楽しみを教えてやろうか。。なんて悩んだあかつきには、
こんな悪戯好きのお婆ちゃんがいたことを話してやるといいかもしれない。
モラルやルールを飛び越えて、精一杯命あることを楽しめる人生こそ、彼女が
味わいたかった歓びであり、過去に失われてしまった幸福そのものだったのだ。
この時代特有の描き方なので、賛否は分かれるところかなぁーと思えるが、
監督の訴えそのものが見えてくると、実に深遠なテーマだったと分かる佳作。
(やっぱりこの時代はバイクですねぇv警官の白バイ盗んじゃうのはマズいけどね)