「シドニー・ルメット。最後まで人間の良心を信じた映画監督。」ネットワーク あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
シドニー・ルメット。最後まで人間の良心を信じた映画監督。
シドニー・ルメットといえば、私にとって最高の作品は、映画監督としてのキャリアの最初となる1957年の「十二人の怒れる男」である。TVドラマのリメイクであり筋の面白さはルメットの功績ではないが全編に人間の良心を信じるヒューマニズムの精神が貫かれている。心洗われる傑作である。
さて約20年後にルメットが撮った本作。ベトナム戦争は終わり、ウォーターゲート事件が起こり、国内の人権闘争も先が見越せないそんな時代。アメリカにおける民主主義に陰りが見えてきていた。本作は、そんな時代に、強力に世論をコントロールしているTVネットワークの実態と限界を見事に暴いてみせた。
この作品で印象的なのは声。ピーター・フィンチ演ずるハワードがスタジオで、舞台で語るスタンドアップも説得力はあるが、TV局の親会社の会長であるアーサー(ネッド・ビーティ)が会議室でハワードに話しかけるシーンがなんとも悪魔的で凄まじい迫力がある。この男によれば国家も民主主義も既に滅んでおり、人類を支配するのは多国籍企業による資本の論理である。実に正確な預言なのである。
この映画は、脚本のパディ・チャイエフスキーのMGMへの持ち込み企画である。すなわちルメットは雇われ監督であり、そのせいか、映画の筋としてはルメットらしくはない。ただルメットの分身ともいえる登場人物が一人いてそれがウィリアム・ホールデン演じるマックスである。彼は筋とは直接関係はしない。しかし主人公であるハワードやフェイ・ダナウェイ演ずるダイアナの周辺にいて自身で間違いも犯すが最後には良心に基づく行動をとる。ルックスや経歴も古い時代のTV人でありルメット自身を反映していると言えるだろう。こういった人物造形に私自身はルメットのヒューマニズムへの揺るぎない信奉を見取るのである。
共感&コメントありがとうございます。
十二人・・はシチュエーションとか含めて傑作ですね。ヘンリーフォンダ=良心って感じ。今作のウィリアムホールデンは浮気してますからねー。