劇場公開日 1977年1月

「テレビ報道のあり方と企業による利益追求の相反を風刺したドタバタ劇ではあるが、時代が変わり、手軽さと拡散力でテレビに取って代わったインターネットが人類の意志を撹乱しているという現実…」ネットワーク kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5テレビ報道のあり方と企業による利益追求の相反を風刺したドタバタ劇ではあるが、時代が変わり、手軽さと拡散力でテレビに取って代わったインターネットが人類の意志を撹乱しているという現実…

2024年12月17日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

午前十時の映画祭14にて。

これを名作と言ってよいかどうかは疑問だが、当時としてはセンセーショナルな内容だっただろう。
この映画の公開時、テレビの情報番組で紹介者が〝ネットワーク〟の言葉の意味からはじめてアメリカテレビの3大ネットワークについて説明をしていたのを憶えている。
そんな時代だった。当時私は中学生。

ドナルド・トランプか立花孝志か、、、ハワード・ビール(ピーター・フィンチ)は過激な言葉とパフォーマンスで民衆を扇動する。
あんなもので誘導されてしまうほど人はバカじゃないと思ってはいけない。今年(2024年)の米大統領選や兵庫県知事選の結果が物語っている。
(トランプ次期大統領と立花氏を同一扱いしているわけではないので、誤解なきよう)

とはいえ、ハワード・ビールというキャラクターは常軌を逸した極端な設定で、このような狂気の沙汰を全米ネットでの視聴率競争に明け暮れるメジャー放送局なら生み出しかねないという、皮肉のファンタジーである。

全米ネットワークの一角である架空のテレビ局UBS。
エンターテイメント部門のプロデューサーであるダイアナ・クリステンセン(フェイ・ダナウェイ)は、視聴率のためなら危険な題材を扱うことも厭わず、〝怒れる預言者〟ビールを作り上げていく。
ビールの扱いをめぐって経営と揉めていた報道部門の責任者マックス・シューマッカー(ウィリアム・ホールデン)は、報道部門にも利益を追求する経営方針と対立し、コングロマリットのトップを批難して解雇される。

マックスとダイアナが不倫関係に陥るのは唐突すぎて理解に苦しむが、この関係がないとマックスが報道のショー化に苦言を呈する場がないから、必要なんだろう。

マックスがダイアナとの関係を妻(ベアトリス・ストレイト)に告白して夫婦関係が崩壊すると同時に、物語は不穏な方向に展開していく。
そして、驚愕の“あり得へん”結末が訪れる。

監督のシドニー・ルメットは本作を「風刺ではない、ルポルタージュだ」と言っている。
彼は前年に公開された『狼たちの午後』(’75)でも、テレビ報道に映し出された犯人を見た民衆が熱狂していく様子をドキュメンタリータッチで描いていた。
視聴率競争に躍起になるテレビ局において、この映画のような行き過ぎは起きていない(放送倫理、放送コードで多少は規制が利いている)が、情報化社会は目覚ましい発展を遂げ、当時最大の情報源だったテレビは〝オールドメディア〟となった。
放送倫理に制御されず個社・個人の倫理感に委ねられるインターネット(SNS)に溢れる情報は、真偽不明なだけでなく時には悪意や極端な思想に基づいた過激論調が人々の興味を引くこととなった。
この映画が見せる情報に踊らされる民衆の姿は、現代の刺激的な情報を鵜呑みにして拡散してしまう人々を予見したものかもしれない。

ピーター・フィンチとフェイ・ダナウェイはアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の両方で主演男優・女優賞を受賞した。
ウィリアム・ホールデンから不倫の事実を告白された妻役のベアトリス・ストレイトは、不貞の夫を責めつつ、夫を長年支えてきた主婦の存在意義を訴える1シーンだけでアカデミー賞助演女優賞を受賞した。

kazz