ネットワークのレビュー・感想・評価
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テレビ報道のあり方と企業による利益追求の相反を風刺したドタバタ劇ではあるが、時代が変わり、手軽さと拡散力でテレビに取って代わったインターネットが人類の意志を撹乱しているという現実…
午前十時の映画祭14にて。
これを名作と言ってよいかどうかは疑問だが、当時としてはセンセーショナルな内容だっただろう。
この映画の公開時、テレビの情報番組で紹介者が〝ネットワーク〟の言葉の意味からはじめてアメリカテレビの3大ネットワークについて説明をしていたのを憶えている。
そんな時代だった。当時私は中学生。
ドナルド・トランプか立花孝志か、、、ハワード・ビール(ピーター・フィンチ)は過激な言葉とパフォーマンスで民衆を扇動する。
あんなもので誘導されてしまうほど人はバカじゃないと思ってはいけない。今年(2024年)の米大統領選や兵庫県知事選の結果が物語っている。
(トランプ次期大統領と立花氏を同一扱いしているわけではないので、誤解なきよう)
とはいえ、ハワード・ビールというキャラクターは常軌を逸した極端な設定で、このような狂気の沙汰を全米ネットでの視聴率競争に明け暮れるメジャー放送局なら生み出しかねないという、皮肉のファンタジーである。
全米ネットワークの一角である架空のテレビ局UBS。
エンターテイメント部門のプロデューサーであるダイアナ・クリステンセン(フェイ・ダナウェイ)は、視聴率のためなら危険な題材を扱うことも厭わず、〝怒れる預言者〟ビールを作り上げていく。
ビールの扱いをめぐって経営と揉めていた報道部門の責任者マックス・シューマッカー(ウィリアム・ホールデン)は、報道部門にも利益を追求する経営方針と対立し、コングロマリットのトップを批難して解雇される。
マックスとダイアナが不倫関係に陥るのは唐突すぎて理解に苦しむが、この関係がないとマックスが報道のショー化に苦言を呈する場がないから、必要なんだろう。
マックスがダイアナとの関係を妻(ベアトリス・ストレイト)に告白して夫婦関係が崩壊すると同時に、物語は不穏な方向に展開していく。
そして、驚愕の“あり得へん”結末が訪れる。
監督のシドニー・ルメットは本作を「風刺ではない、ルポルタージュだ」と言っている。
彼は前年に公開された『狼たちの午後』(’75)でも、テレビ報道に映し出された犯人を見た民衆が熱狂していく様子をドキュメンタリータッチで描いていた。
視聴率競争に躍起になるテレビ局において、この映画のような行き過ぎは起きていない(放送倫理、放送コードで多少は規制が利いている)が、情報化社会は目覚ましい発展を遂げ、当時最大の情報源だったテレビは〝オールドメディア〟となった。
放送倫理に制御されず個社・個人の倫理感に委ねられるインターネット(SNS)に溢れる情報は、真偽不明なだけでなく時には悪意や極端な思想に基づいた過激論調が人々の興味を引くこととなった。
この映画が見せる情報に踊らされる民衆の姿は、現代の刺激的な情報を鵜呑みにして拡散してしまう人々を予見したものかもしれない。
ピーター・フィンチとフェイ・ダナウェイはアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の両方で主演男優・女優賞を受賞した。
ウィリアム・ホールデンから不倫の事実を告白された妻役のベアトリス・ストレイトは、不貞の夫を責めつつ、夫を長年支えてきた主婦の存在意義を訴える1シーンだけでアカデミー賞助演女優賞を受賞した。
約50年前の作品とは思えないほどストーリー・映像共に古さを感じない、現代にも通じるTV業界の闇を徹底的に描ききった衝撃作
午前十時の映画祭14で鑑賞
最大の見どころは本作でアカデミー賞 主演女優賞を受賞したTV局の新鋭プロデューサー・ダイアナを演じるフェイ・ダナウェイさんの演技、とにかく視聴率アップだけを追求し成功のためなら何でもする、という人でなしでなかなかのクズ女をめっちゃくちゃエネルギッシュに演じています、見た目がすごく綺麗な上に野獣のような目つきがとても恐ろしかった(苦笑)
そして同じくアカデミー賞 主演男優賞を受賞したピーター・フィンチさん、落ち目のニュースキャスター・ハワードがさらにどんどん堕ちていき、しまいにゃオンエアまで使って世論を巻き込み狂気の世界に蝕まれ暴走していく様を見事に演じています
尚、フィンチさんは残念ですがオスカーノミネーション直後に心不全で亡くなり死後の受賞だったとのこと
そんなハワードを使って勢いを増すダイアナ達 TV局内の新興勢力の愚行がエスカレートしとんでもない方向に転がり、衝撃のラストに向かっていくストーリー展開がとても秀逸で素晴らしい、グイグイ引き込まれ、あっという間で見応え満点の有意義な2時間でした
これを半世紀前に撮りきっているシドニー・ルメット監督はじめ関係者の手腕に脱帽です
現代にも警鐘を鳴らすシドニー・ルメット監督の力作!
午前十時の映画祭で鑑賞。
つい最近見た「チャイナタウン」に引き続き、偶然だがこの映画にもフェイ・ダナウェイが出演。
社会派シドニー・ルメット監督が視聴率至上主義のテレビ業界を痛烈に皮肉った問題作。
上映前後に町山智浩氏の解説映像があり、当時の時代背景やテレビ業界の裏側にいる株主のことなど、映画理解にとても役立ちました。
テロリストに犯行ビデオを撮らせるとか視聴率さえ取れれば何をやってもいいのかという問題は、現代ではネットやSNSと置き換えるとそのまま共通する問題だと思いました。
いいねや再生回数を稼ぐのに必死な人々。都合の悪い真実は隠され、フェイクニュースに振り回される人々。カリスマの言うことは盲目的に信じ熱狂する人々。
映画のラストはブラックジョークだと思いますが、今の時代は当時よりも人々の倫理観が薄れてると感じられるだけに笑えない怖さがありました。
古い映画ですが、社会問題の本質を鋭く問いかける視点は全く古さを感じさせず、シドニー・ルメット監督らしい力作だと思います。
精神を病んでいくニュースキャスターのハワード・ビールを演じたピーター・フィンチはアカデミー主演男優賞受賞も納得の大熱演だったと思います。
同じく主演女優賞受賞のフェイ・ダナウェイは仕事でも私生活でも全く倫理観のかけらもない人物ダイアナを好演しておりました。
個人的には役柄に一番共感できたマックス役のウィリアム・ホールデンがとても渋くて良い味を出してるなあと思いました。
ハイテンション演技
午前十時の映画祭、シドニー・ルメット監督作「ネットワーク」
ニュースキャスター役のピーター・フィンチがアカデミー賞ノミネート後に急死したのもあり、主演男優賞ピーター・フィンチを始め、主演女優賞フェイ・ダナウェイ、助演女優賞ベアトリス・ストレイト(この人は2シーンしか出演せずアカデミー史上最短出演時間の記録を)と演技賞ほぼ独占する作品らしい(お陰で同年作のタクシードライバーのデ・ニーロは受賞ならず!)
配信、ソフト化されていないこともあり劇場で初鑑賞したが、上記3名に加えロバート・デュバル、ウィリアム・ホールデンの名優並びに会長役のネッド・ビューティーのハイテンション長台詞、軒並み出演者陣、皆「半沢直樹」状態!
話がどんどん大きくなり、出演陣どんどんテンションが上がり、ラストは…
しかし、この頃のフェイ・ダナウェイ、ジュリアン・ムーアを若くして色気百倍にしたくらい、セツクスアピールが半端ない!(相変わらずの細眉!)
そりゃぁ、浮◯して家庭を◯てようと…オワリ!
シドニー・ルメット。最後まで人間の良心を信じた映画監督。
シドニー・ルメットといえば、私にとって最高の作品は、映画監督としてのキャリアの最初となる1957年の「十二人の怒れる男」である。TVドラマのリメイクであり筋の面白さはルメットの功績ではないが全編に人間の良心を信じるヒューマニズムの精神が貫かれている。心洗われる傑作である。
さて約20年後にルメットが撮った本作。ベトナム戦争は終わり、ウォーターゲート事件が起こり、国内の人権闘争も先が見越せないそんな時代。アメリカにおける民主主義に陰りが見えてきていた。本作は、そんな時代に、強力に世論をコントロールしているTVネットワークの実態と限界を見事に暴いてみせた。
この作品で印象的なのは声。ピーター・フィンチ演ずるハワードがスタジオで、舞台で語るスタンドアップも説得力はあるが、TV局の親会社の会長であるアーサー(ネッド・ビーティ)が会議室でハワードに話しかけるシーンがなんとも悪魔的で凄まじい迫力がある。この男によれば国家も民主主義も既に滅んでおり、人類を支配するのは多国籍企業による資本の論理である。実に正確な預言なのである。
この映画は、脚本のパディ・チャイエフスキーのMGMへの持ち込み企画である。すなわちルメットは雇われ監督であり、そのせいか、映画の筋としてはルメットらしくはない。ただルメットの分身ともいえる登場人物が一人いてそれがウィリアム・ホールデン演じるマックスである。彼は筋とは直接関係はしない。しかし主人公であるハワードやフェイ・ダナウェイ演ずるダイアナの周辺にいて自身で間違いも犯すが最後には良心に基づく行動をとる。ルックスや経歴も古い時代のTV人でありルメット自身を反映していると言えるだろう。こういった人物造形に私自身はルメットのヒューマニズムへの揺るぎない信奉を見取るのである。
前から観たかったシドニー・ルメット監督の名作。テレビがメディアの頂...
前から観たかったシドニー・ルメット監督の名作。テレビがメディアの頂点だった時代の話だが、現代社会にも通ずる根深いテーマ。名優たちの演技のぶつかり合いがすごい。特に『ジョーカー』など後の映画に影響を与えたというキレっぷりのピーター・フィンチ、仕事に陶酔し怒涛の早口長台詞を披露したフェイ・ダナウェイ、僅か5分40秒の出演でインパクトを残したベアトリス・ストレイトは、それぞれアカデミー賞主演男優賞(受賞前に亡くなった)、主演女優賞、助演女優賞(出演時間歴代最短)を受賞。仕事と私生活に翻弄されるウィリアム・ホールデンや、助演男優賞ノミネートのネッド・ビーティ(『トイストーリー3』のロッツォの声!)も豹変ぶりが面白かった。パディ・チャイエフスキーの脚本賞と合わせ4部門受賞。
演技バトルが凄まじい
50年前の評判作を初見。当時マスメディアの中心的存在となったテレビネットワークを舞台に、視聴率競争に翻弄される業界人たちの姿を描く。
冷静に考えれば、さすがにそこまで酷いことはないだろうという物語展開だが、シドニー・ルメットのソリッドで緩みない演出で、あり得るかもしれない説得力ある話として引き込まれる。主人公2人の恋愛要素も相当無理があるが、そこはハリウッド映画らしいところか。
とにかく、俳優陣の演技バトルが凄まじい。アカデミー主演賞をとったフェイ・ダナウェイとピーター・フィンチは、長台詞をものともせず、鬼気迫る勢い。出番は少ないものの、ウィリアム・ホールデンの妻役と親会社の会長役も上手いなと思って、後から調べると、2人ともアカデミー助演賞にノミネートされた(妻役のベアトリス・ストレイトは受賞)とのこと。
預言者のようになったテレビキャスターの呼びかけに応じて、視聴者が次々と外に向かって「もう我慢できない」と叫ぶシーンが印象的。今だったらSNSになるのだろう。メディアが変わっても、扇動の具になり得ることを改めて考えさせられる。
視聴率が全て
日本人は偽りに飽きている
I'm as mad as hell, and I'm not going to take this anymore!
午前十時の映画祭にて鑑賞。
高校生の頃にレンタルビデオで鑑賞して以来、40年近くぶりなので内容は勿論うろ覚え。
名作映画は頭の中を上映された時代まで戻すという作法に則り鑑賞。
でないと古さや既視感(こっちが先なんだけど)で正当な評価ができず楽しめなくなるので。
この映画は脚本家のパディ・チャイエフスキー抜きには語れない。
映画会社との交渉やキャストの選抜にも動き、脚本通りに演出しているか確認のためずっと現場にも立ち合うなど徹底的なこだわりを見せ、彼の作品と言われているそう。
時代は70年代中盤のアメリカ。
ベトナム戦争やウォーターゲート事件等で殺伐とした時代の大手放送ネットワークが舞台。
落ち目のニュース番組のアンカーだったハワードを預言者にし、ハイテンションで世の中に怒りをぶちまけさせる過激な内容のエンタメ番組として視聴率を荒稼ぎするが・・・というお話。
犯罪者へのインタビューや会社の舞台裏を赤裸々に明かすなどでニュースをエンタメ化することは当時としては極端な描き方をした笑えないブラックコメディだったが、現在では毎日目にする当たり前のテレビ演出となっており、未来の予言書のような映画へと昇華。
ウイリアム・ホールデン、フェイ・ダナウェイ、ロバート・デュバルなどの名優に加え、ぶっ飛んだ演技で強烈なインパクトを残したピーター・フィンチ、たった5分の出演でアカデミー助演女優賞を獲得したベアトリス・ストレイトなど俳優たちの気持ちの入った演技を観れるのも良い。
個人的には再会できてホントに良かったと思えた映画でした。
ポンポン
テレビ報道の熾烈な視聴率競争に巻き込まれる人々の波乱、業界の内幕 ピーター・フィンチ、フェイ・ダナウェイの演技が見事!
テレビ報道の熾烈な視聴率競争に巻き込まれる人々の波乱の内幕を描く。
出演が、フェイ・ダナウェイ、ウィリアム・ホールデン、ロバート・デュヴァル、監督が、シドニー・ルメットという豪華な布陣。
低視聴率から降板が決まったニュース・キャスターが、放映中にカメラの前で自殺予告を発表。
その様子はそのまま生放送される。
てっきり、自殺を敢行するかと思いきや、今度はある夜に聞いた「声」のメッセージを視聴者にテレビで訴える。
今すぐ、窓を開けて叫ぼう!
「私は怒ってる!もう耐えられない!」と!
すると、近所の窓から多くの人々が次々に叫び出す。
このシーンが凄い!
感動した!
確かに演じるピーター・フィンチが、アカデミー主演男優賞をとったのもわかる。
アカデミーの主演男女優賞って、わかりやすい熱演がとりがち。
また、ラブ・シーンですらテレビの話しかしない、主演女優賞のフェイ・ダナウェイも見事。
視聴率のためには殺人すら辞さない、誰一人止めようとしない結末が、衝撃的だ。
「これは試聴率の低下のために死んだ「最初の男」の物語」という皮肉なナレーションが効いている。
余談ですが、今回は町山さんの解説付き上映。
町山さんは好きですし、解説は面白くてためになるんですけれど、今回は解説が上映の前後にあって、なるべく情報無しで観たい私としては、上映前にあらすじ(ネットにもある、ほんのさわり程度ではあるんですが、)は聞きたくなかった。
上映前では逃げようがなくて困った。
次回からは耳をふさぐようにします。
ポスト・フィクション
大胆で奇抜なテレビ業界の内幕暴露映画の真面目な風刺劇
テレビ界の出身で法廷劇の代表的名作「十二人の怒れる男」を発表した監督シドニー・ルメットは、そのデビュー作の実力を継続することが出来なかったが、1964年にロッド・スタイガー主演の力作「質屋」で片鱗を見せ、最近ではアル・パチーノ好演のリアリズムの社会派映画「セルピコ」と「狼たちの午後」で復活してきたと思われた。しかし、今度のテレビ業界の内幕を衝撃的に暴いたこの話題作は、あまり感心出来ない。勿論「十二人の怒れる男」には遠く及ばず、「狼たちの午後」にある予測不可能なストーリーの面白さも欠ける。深刻なドラマ「質屋」とも、重量感では敵わない。キネマ旬報の1977年度ベストテンの第2位に選出されているが、これは全く理解できない。ルメット監督なら、もっと完成度を要求しなくては意味が無いと思うのだが、どうしたのだろう。
視聴率獲得に血相を変えて人間性喪失の失格人物たちが、カメラの前とスタジオ外で子供じみた戦争ごっこをするのは、それはそれで面白いと思う。しかし、それを表現するのに大人の視点や批判が演出に欲しかった。ニュース報道部の主任ウイリアム・ホールデン始め、この作品でオスカーを得たフェイ・ダナウェイやピーター・フィンチの主要人物をそれなりに現代マスメディアの人間として描いている。しかし、何かに取り憑かれたようなニュースキャスターのフィンチとその扇動に共感し支持する客席の民衆とのスタジオシーンは、その社会性より皮相的な作り話の可笑しさしかない。この風刺にはルメット監督の良さが出ていないと思った。ダナウェイの熱演については改めて感心したが、でもこの程度の演技は彼女にとって普通だし、フィンチもこの役柄のお蔭でアカデミー賞を受賞したと思わせる。アカデミー賞の悪い一面が出たか、他に評価すべき俳優が居なかったのか、そのどちらかだろう。テレビはメディアの中で独立した強大な武器になることは理解する。その点を付いた大胆で挑戦的な制作意欲は買うが、内容が幼稚ではないだろうか。そこにアメリカらしい皮肉もある。ただ個人的には響かなかった。
テレビ出身のルメット監督が成し得る初めてのテレビ内幕暴露映画だが、結末が安易すぎてしっくりこない。また、その結末のスキャンダル性と、後半の社会批評に風刺の説得力がない。それでもフェイ・ダナウェイの熱演でラストまで引きずられる面白さは久し振り。どうせ皮肉ならば、テレビの世界を知り尽くしたルメット監督の遊びが出来たのではないかと惜しまれる。
1978年 5月18日 池袋文芸坐
ブラック
『TV業界の今日を予言した一作』
自宅にて鑑賞。TV業界作り手の裏側や恥部を告発、昨今の醜態を予言した様な一作。ボテッとしたフォントのオープニングロールとタイトルコール。狂える男の一言は低迷する報道部や製作部、果てはテレビ局にとって、降って湧いた様な千載一遇のチャンスとなる。そこから始まる狂乱とも呼べる局内外の権力争いと影響される視聴者に世論。唯一の良識と思える男は派閥(権力)争いに巻き込まれ馘になってしまう。全篇に亘り、BGMはTVから流れるCMや番組テーマ曲のみで構成されている。かなりイカレた内容だが、マスメディアに興味がある人にはマストな一作。80/100点。
・アチラを見てもコチラを見ても始終、写し出されるのはおじさん達ばかりで、地味目の画面が殆どではあるが、'76年と云う時期に、コンプライアンスを声高に唱える反面、数字に取り憑かれ狂騒を繰り返すメディア業界の今日を連想させる本作を作った意義は大きい。ぜんざいの甘さを引き立てるのは添えられた一片の塩昆布であり、現実離れしたのが数多く描かれる映画(エンタメ)界にも、派手さには欠けるものの本作の様な渋めの一作は貴重なビター・スパイスである。
・余り乗り気でなかったが、観始めると描かれている内容にグイグイ惹き込まれた。明確な善人や悪人は登場せず、各々がそれぞれの立場で奔走ずる姿は、部外者からは滑稽で狂気にも通ずる感覚を憶える。テンポも悪くなく、ほぼ無駄が無い引き締まった展開は、観ている者を飽きさせない。人気者が出る甘いばかりのラブストーリーやお伽噺にしか思えない青いアニメ、超人達が翔び交うヒロイックものも悪くはないが、たまには武骨で骨太な本作の様な渋い一作も観ておくべきである。自称“バリスタ”が淹れる中途半端なコーヒーよりもウンッと目醒めが佳い事は保証する。
・求心力が人一倍強く、上昇志向の塊の様な女。そんな女に惹かれ、25年築き上げた家族を顧みない哀しい初老の男。顛末に救いらしきモノは存在しないが、鑑賞後の後味も悪くない。ただともすれば古臭く感じてしまう画面をどう感じるかによる。よく見ると、何度か登場する「ハワード・ビール・ショー」内の観客席には毎回、複数の同じ客(長髪に髭を伸ばした男性や白地に赤い縦縞のカーディガンを羽織る女性等)が見受けられる。
・本作はP.チャイエフスキーのオリジナル脚本が基となっているが、'74年7月15日、米国のABCテレビの関連会社WXLTテレビ(現WWSB)のトーク番組「サンコースト・ダイジェスト」の生放送中に女性キャスターC.チュバックが拳銃自殺を遂げた(彼女を題材にドキュメンタリー『Kate Plays Christine('16・R.グリーン監督)』と『Christine('16・A.カンポス監督)』の二本が映画化されている)。当初、P.チャイエフスキーは否定していたが、後にこの事件に触発され、本作の脚本を書き始めたと認めた。
・F.ダナウェイの“ダイアナ・クリステンセン”は、伝説のTVプロデューサー、リン・ボーレンがモデルになっているとされている。亦、M.ワーフィールドが演じている“ローレーン・ホッブズ”は、共産主義者としてメディアに迎合し、取り込まれた感のある実在した政治活動家アンジェラ・デービスがモデルとなっている。
・犯罪者自らが撮影したフィルムを鑑賞する際、話題に出ていたパトリシア・ハーストは実在の女性(身代目的で誘拐された後、誘拐犯側の一員になったストックホルム症候群の富豪令嬢)である。K.クロンカイトが演じている“メアリー・アン・ギフォード”はパトリシア・ハーストがモデルと思われる。亦、彼女の実父ウォルター・クロンカイトは“ハワード・ビール”役をオファーされたが、興味が持てず断ったとされている。
・P.フィンチが演じた“ハワード・ビール”はH.フォンダにオファーされたが、余りにもヒステリック過ぎるとの理由で断られたと云う。J.スチュワートも言葉が汚いとの理由で断ったとされる。この役は、(上述の)W.クロンカイト、(脚本も読まず辞退したとされる)G.C.スコット、G.フォード、G.ハックマン、J.チャンセラーにオファーされたらしいが、脚本執筆時のP.チャイエフスキーは、H.フォンダ、J.スチュワート、P.ニューマン、C.グラントを思い描いていたと後にインタビューで答えている。
・“マックス・シューマッカー”には、W.マッソー、G.ハックマンがオファーされたと云う。最終的にG.フォードとW.ホールデンが最終候補として残され、W.ホールデンがこの役を得た。
・第49回(1976年度)アカデミー賞主演男優賞 にノミネート直後、“ハワード・ビール”役のP.フィンチは心不全で急死したが、その後受賞し、アカデミー賞史上初の死後受賞となった(後に死後受賞したのは『ダークナイト('08)』のH.レジャーが二人目)。亦、W.ホールデンの“マックス・シューマッカー”の女房“ルイーズ”役そしてB.ストレイトが同年同賞の助演女優賞を受賞したが、アカデミー賞史上最も短い出演時間(約五分半)での受賞となっており、'19年8月現在、この記録は破らていない。
・'07年に千五百人以上による投票により決定されたAFI(American Film Institute)が定める「AFIアメリカ映画100年」の64位にランクインしている。米国を代表する映画評論家R.エバートの「最も素晴らしい映画ベスト100(Great Movies:The 100 by Roger Ebert)」にもランクインしている。亦、映画プロデューサーのS.ジェイシュナイダーによる「死ぬまでに観たい映画1001本(101 Gangster Movies You Must See Before You Die by Steven Schneider)」にもランクインしている。
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