劇場公開日 2022年1月7日

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「政治的な世界観が盛り込まれたSF映画」ニューヨーク1997 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0政治的な世界観が盛り込まれたSF映画

2022年1月9日
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鑑賞方法:映画館

 警察は時としてカタギよりもヤクザを信用する。カタギは日常的に死ぬことをあまり意識せずに生きているが、ヤクザは常に、いつ死んでもいいと思いながら生きている。勿論カタギにも死の恐怖はあるだろうが、覚悟が違うのだ。命を惜しむようなら、もはやヤクザではないが、
 本作品のように圧倒的に悪い連中が揃っている場所にひとりで潜入するには、警察官では物足りない。警察官とは言っても、カタギだからである。究極の死の覚悟はないのだ。それに警察官は上司の命令で動く公務員である。臨機応変に対応しなければあっさりと死んでしまうような極限状況にひとりで派遣しても使い物にならない。特殊な潜入訓練を受けたCIAの工作員なら本作のミッションもこなせるだろうが、そう簡単にイーサン・ハントはいないのである。
 そのあたりのことを、リー・ヴァン・クリーフ演じる警察のボスが知らないはずはなく、お誂え向きにその場に悪党のスネーク・プリスキンがいて、おまけに元特殊部隊ときている。胆は据わっているし、闘争能力も申し分ない。それに乗り物の操縦や運転はお手の物だ。こいつを使わない理由はない。

 現場に到着してからのストーリーはジョン・カーペンター監督らしくリアルである。主人公は決してスーパーマンではないし、奇跡も簡単には起きない。まだCGが普及していない時代である。模型のチープ感を指摘するのは野暮というものだ。リボルバーやMAC10が無限に撃てたりすることにも目をつむる。
 カーペンター監督はSF映画やホラー映画に世界観や政治的なテーマを盛り込む。本作品もその例に漏れず、第三次大戦を始めたアホな大統領と、クズを集めて図に乗るギャングのボス、そのボスに知識を切り売りして生き延びる知識人のヘルマン。ヘルマンに大統領の側近のことをいう「ブレイン(脳)」と名乗らせたのは、カーペンター監督一流の皮肉だろう。

 たくさん人が死んだことを悲しみもしない大統領に、プリスキンが密かな反撃を食らわせるラストは洒落ている。主人公のニヒルな世界観は、SF映画では類をみない。プリスキンをモデルにしたと言われるビデオゲームの「メタルギア・ソリッド」のビッグボスは、自身の世界観を明らかにしてない。小島秀夫さんがエンタテインメントに徹したということだろう。

耶馬英彦