「映画の悦びに、全身を包まれることでしょう。」ニュー・シネマ・パラダイス 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
映画の悦びに、全身を包まれることでしょう。
MOVIXでリバイバル上映をやっていたので、見てきました。
とにかく序盤の映画館主アルフレードと幼くしておませな映画マニアとなったトト少年(サルヴァトーレ)の交流がとても素敵でした。勝手に映写室に忍び込んで来るトトをアルフレードは追い返しつつ、子供が持たなかった淋しさから次第にトトを不二の友として迎えていくのでした。
教会が設立した映画館ては神父による検閲が厳しく、キスシーンはカットされ捨てられていましたが、トトはアルフレードの目をかいくぐり、これを宝物のように拾い集めていました。トトの映画に対するあこがれの思いは、見ている映画ファンならだけでも理屈抜きで共感できるものです。どんなシーンでも宝物にしてしまうトトの姿に、この作品の映画賛歌を強く感じました。
アルフレードとトト少年の繋がりはやがて肉親よりも強い絆となっていきます。映画館が火事にあったときはトトがアルフレードを救出し、命の恩人になります。そして失明したアルフレードに変わって、トトが映画館のスタッフを務めます。
しかし徴兵制で、サルヴァトーレが映画館のスタッフを休職し、再び故郷のシチリアに戻ってきたとき、アルフレードは、サルヴァトーレを激しい口調でローマへ追い返すのです。アルフレードは失明で得た、先見の明でサルヴァトーレの才能を見抜き、田舎の小屋で一生過ごすよりも都会に出せば大きく飛躍できることを確信していたのでした。
以来、30年間一切音信を断ち、自らの死をも隠し通したアルフレードのサルヴァトーレを愛する思いはいかばかりだったでしょう。どれだけ会いたかったことでしょう。
故郷を出て、アルフレードと一度も再会できず、自分の道を切り開いてきたサルヴァトーレの無念さから、逆にアルフレードの優しさと信念が忍ばれました。
デジタルマスター版のラストでは、最後に著名映画監督となったサルヴァトーレがキスシーンをつなぎ合わせたフィルムを見るというシーンが追加されています。次々現れるかつてカットされたキスシーンのフィルムをサルヴァトーレとともに見るにつけ、熱い思いがこみ上げてきました。この思いはうまく言葉では言い表せません。敢えて言うなら、いや~映画ってホントいいものですよねぇ~ぐらいでしょう。
映画が好きなら一度は見ておくべき作品です。映画の悦びに、全身を包まれることでしょう。エンリオ・モリコーネのテーマ音楽も必聴です。