ナッシュビル : 映画評論・批評
2011年8月2日更新
2011年8月6日より新宿武蔵野館にてロードショー
24人以上の人物を描きながら、アメリカの見取図を浮上させる監督の力技
「M★A★S★H」「バード★シット」「ギャンブラー」に「ロング・グッドバイ」と続く監督ロバート・アルトマン1970年代の快作群。中でも75年、50歳の監督が放った「ナッシュビル」は、お気に入りのマルチプロットによる話術のスリルを見せつける傑作、なにがなんでも銀幕でその大きさを堪能したい必見作だ(万が一、アルトマンなんて関係ないと思ったとしても、例えばタランティーノ俳優修行時代の師アレン・ガーフィールド、はたまた「パレルモ・シューティング」も楽しみなベンダースの元妻ロニー・ブレイクリーと、一見の価値ありの顔ぶれが渋くミーハー心をくすぐってもくれるばずだ)。
カントリー&ウェスタンのメッカでスターを夢見てすれ違う人と人。2ダースをこえる主要人物をぱさぱさと切り替わる中継キャメラにも似た乾いた視線で追いながら、いつしか点を線にしてアメリカの見取り図を浮上させる監督の力技が光る。建国200年と大統領選を控えた往時の合衆国の現実をふまえて映画は背景に、草の根派選挙運動を展開する面々の野心もぬかりなく食い込ませる。成功を勝ち取るためのあの手この手。力の仕組み。その残酷と空しさが人に降りかかる運の明暗を際立たせる。人々が一堂に会するクライマックス。惨事の中でチャンスをつかむ家出妻。呆然と脇に居るのは裸と引き換えに晴れの舞台への切符を手にした歌手志望のウェイトレスだ。そうして彼らの背後に星条旗が翻り、それでも広がる空の高みへとキャメラは希望のありかを手探りする。今に連なるアルトマン映画のそんな空。出会ってみて欲しい。
(川口敦子)