鳥の島の財宝

劇場公開日:

鳥の島の財宝

解説

チェコ・アニメーションの先駆者として多くの名作を手がけた巨匠カレル・ゼマンが1952年に発表した初長編作で、古いペルシャの寓話を基に伝統的なペルシャ細密画のような作風で描いた人形アニメーション。

とある美しい小さな島で、人々が平和に暮らしていた。ところがある日、島に黄金がもたらされたことで彼らの生活は一変し、争いや憎しみが生まれてしまう。

2022年に特集企画「チェコ・ファンタジー・ゼマン!」で上映され、2024年に再び行われる「チェコ・ファンタジー・ゼマン!2024」(24年11月16~29日、新宿K's cinema)でも上映。

1952年製作/73分/チェコスロバキア
原題または英題:Poklad Ptaciho ostrova
配給:アンダソニア
劇場公開日:2024年11月17日

その他の公開日:2022年4月27日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

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映画レビュー

3.5鳥大好き! 海大好き! 財宝大好き! のカレル・ゼマンの出発点。彼のすべてはここにある。

2022年5月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

新宿K’sシネマのカレル・ゼマン特集上映の三日目の2本目、累計8本目。
カレル・ゼマンにとっては、長編第一作となる人形アニメーション。
少しトルンカの『皇帝の鶯』を思わせるような東洋的な顔立ちの人形を用いて、中東の小さな島で起きた海賊の財宝争奪戦の顛末を描く。原作は、ペルシャの古い民話だそうで、のちに彼が製作することになる『シンドバッドの冒険』のパイロット版みたいな位置づけで考えればいいのか。
海から始まった物語が、地上世界に持ち込まれてカタストロフィを引き起こした挙句、すべてがまた海に還ってゆくという大筋自体、『シンドバッドの冒険』の複数エピソードと通底するし、人形の顔立ちも『シンドバッドの冒険』の切り絵とよく似通っている。これはゼマンが同じ絵画的ソース(ペルシャの細密画)からキャラデザを引いてきているからだろう。
すでに長編第一作でありながら、パペットアニメとしての達成度は高く、技術的にはほぼ完成の域にあるのが凄い。

お話は簡素だが、教訓的。そして、共産主義的である(笑)。
「大きな富は結局、幸せを生まない。争いだけを生む。労働こそが至高である」
ちょっと、ぎょっとするくらいストレートな左派的なユートピア幻想は、もともとカレル・ゼマンがもっていた思想なのか、それともチェコスロヴァキアで子供向け作品を製作するときにクリアしなければならないある種の「踏み絵」だったのか(ちょうどショスタコーヴィチが「社会主義レアリズム」を標榜し、祝祭的な戦勝音楽を作曲することを半ば強制されたように)。

ただ、「簡単に手に入れた富が身を滅ぼす」ネタは、のちの『シンドバッドの冒険』の真珠のネックレスの話や、無限金貨の頭陀袋の話でも繰り返されているし、「財宝を捨てることで仲間を助ける」話も『狂気のクロニクル』で再話されている。『クラバート』でも、時限性でガラクタに戻る財宝の話が出てきていたし、「悪銭身に付かず」「人生の目的は富ではない」という思想自体は、かなり真剣なゼマン自身の信条だったのではないか。

個人的には、財宝発見をめぐる村の大騒動という大筋以上に、カレル・ゼマン好みのアイテムやシチュエイションがこれでもかとばかりに詰め込まれているのが、観ていてじつに楽しかった。
三つ子の魂百までというか、デビュー作にはやはり創作者の個性と主張がぎゅっと凝縮されるものなのだなあ、と改めて思わされる。

まず、鳥、鳥、鳥の鳥づくし。
タイトルも鳥。聞き手も鳥。主人公の相棒も鳥である。
主人公の少年は、渡ってきたツバメ(柄や巣の形状から察するにイワツバメの仲間か?)に話しかける形で、「ツバメが居なかったあいだに島で起きた出来事」を回顧する。
全編でマスコットのように活躍し、テーマに沿って「貪食ぶり」を発揮するのは、とぼけた眼差しのペリカンだ。鳥は常に、ゼマンの最大の愛着と執着の対象だった。
それから、船乗りの自由と、隠された財宝探し、海上での冒険と海中での冒険、不思議な生物との遭遇といった要素も、その後カレル・ゼマンが何度も何度も繰り返し表現してみせたモチーフである。
むしろ、その「わくわく」が描きたくて、児童向けアニメを作り続けていたといっても良い感じ。
その意味では、まさにゼマン世界の魅力のすべてがぎゅっと詰まった長編第一作といっていいだろう。

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じゃい