「軍隊を俯瞰的に見る」突撃 parsifalさんの映画レビュー(感想・評価)
軍隊を俯瞰的に見る
第一次世界大戦の西部戦線、フランスVSドイツの塹壕戦が舞台。一たび、塹壕を出れば機関銃の掃射に会い、膠着状態が続いた戦場。蟻塚と呼ばれる丘を抑えるための無謀な作戦。将軍の指令は非情で、作戦に反対する大佐。突撃しなかった兵士がいたのと見た将軍は、その兵士に向けて砲撃を命令。突撃した味方は鉄条網を突破することもできずに退却。それを重くみた将軍が、大佐の指揮を非難し、3人の兵士を見せしめのため軍法会議にかけて処刑を主張。大佐は、将軍が味方を砲撃したことを密告し、将軍も地位を失うことに。
軍の上層部は兵士の士気が下がり、自分が地位を失ったり、名声に傷ついたりすることばかりを気にしている。それに比較して、最前線の命が軽いこと軽いこと。銃殺する3人の兵士は、くじ引き、上官が誤って兵士を殺した口封じ、社会的に好ましくないからで選ばれている。上官が誤ってなどは、まさに不条理だ。上層部は、頻繁に酒を飲み、舞踏会で女性と踊り、危険な戦場には身を置かない。兵士たちは、敵と戦うことと同時に、味方の上官と戦っているかのよう。最後、美しいドイツの若い女が涙ながらに歌った歌を聞いた兵士たちが一緒に口ずさみながら涙を流すシーンが、一時、人の心を取り戻したかのようで印象的だった。
この当時として、反戦映画を撮影したというのは、画期的だったに違いない。ただ、何故、フランスVSドイツなのか。キューブリックは、その時代、シチュエーションが人間をどのように変容させるかを描くのが得意だ。俯瞰的な目で、将軍、大佐、軍法会議、死を恐れる兵士、無駄死にしていく多くの兵士を対照的に描いて、問題を浮き彫りにしていた。キューブリック好きであれば、見ておいて損はない映画。