「【“小津の映画は国境を越え理解される。”小津監督を敬愛するヴィム・ヴェンダースが1983年の東京の風景を切り取ったドキュメンタリー。笠智衆や厚田雄春撮影監督へのインタビューシーンは特に貴重である。】」東京画 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【“小津の映画は国境を越え理解される。”小津監督を敬愛するヴィム・ヴェンダースが1983年の東京の風景を切り取ったドキュメンタリー。笠智衆や厚田雄春撮影監督へのインタビューシーンは特に貴重である。】
ー このドキュメンタリー作品は、冒頭にヴィム・ヴェンダースが小津安二郎へのが小津安二郎への想いを語り、「東京物語」の冒頭のシーンから始まり、1883年の東京の様々な風景を捉える中でヴィム・ヴェンダースが想いを呟いて行く。そして、俳優・笠智衆や撮影監督の厚田雄春へのインタビューを行い、再び「東京物語」のラストシーンで締められる。-
◆感想<Caution!内容をそのまま記載しています。>
・1983年の東京を切り取ったシーン
1.満開の桜の下で花見をする人々
2.猥雑な当時のCMが流れるTVを映し、”ここには、東京物語の面影はない”とヴィム・ヴェンダースが嘆いたり
3.パチンコに没頭する人たちの姿を見て”喧騒の中の孤独”と呟いたり
4.食堂に寄った時にショーケースの中の食品サンプルに興味を持った様で、丸一日サンプルを作る職人たちの手元を映したり(このシーンでは、殆どコメントがない。相当に没頭して見ているヴィム・ヴェンダースの姿が思い浮かぶ。)
5.竹の子族の姿を映したり
6.地下鉄の構内で、ぐずる子供の姿を映したり
7.ゴルフの打ちっぱなしの練習場を興味深げに映したり
8.子供達が三角ベースの野球に興じる姿を映したり
ヴィム・ヴェンダース監督が東京に来て、興味を持ったモノを克明に写し出して行く。
・俳優・笠智衆や撮影監督の厚田雄春へのインタビューシーンは取分け面白い。
1.笠智衆が30歳代で、60歳の役を演じていたのは笠さんが出版した「大船日記ー小津先生の思い出」を読んでいたので知ってはいたが、実際にインタビューで”自分だけリハーサル、本番と何度もテイクを重ねた。”と訥々と話す姿は印象的である。
2.小津作品で20年撮影監督(助手時代を入れると30年を軽く超える)を務めた厚田雄春のインタビューシーンは、特に貴重である。
中期以降の小津作品の撮影方法になったローアングルから固定カメラで撮る手法を、独自に作った当時の三脚を使って再現するシーンや、小津監督がロケを好んでいなかった事、けれども列車内のシーンだけは実際に列車内で撮影した事や、ロケハンには長い時間をかけた事。
そして、”小津監督は神様です。”と言って嗚咽を漏らすシーンはこちらまで、涙が出る。
<今作は、小津監督を敬愛する若きヴィム・ヴェンダース監督が、1983年の東京に実際に来て様々な風景を切り取る中で、小津作品への想いを綴った稀有なるドキュメンタリー作品なのである。>