椿三十郎(1962)のレビュー・感想・評価
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真なるリーダーとは?
『椿三十郎』は『用心棒』の続編的な位置づけにあるが、その思想構造はまったく異なる。前作が無法地帯における“力”の再配分を描いたのに対し、本作はすでに確立された秩序、その内部に巣食う腐敗と無思慮を描き出す。舞台は明確に1962年、安保闘争後の戦後日本を反映しており、黒澤作品としては例外的に、露骨に時事と政治を射程に入れた寓話的作品である。
若侍たちの「理想」は、60年代の学生運動に重なる。正義感に燃え、行動に走るが、現実の複雑さを見誤り、結果として多くの犠牲を招く。一方で敵対勢力の室戸(仲代達矢)は、力と策略による冷徹なリアリズムで支配を目論む。
その両者の間にふらりと現れるのが三十郎である。彼は暴力と倫理のはざまで揺れる“問い”そのものだ。『用心棒』では無秩序の外から力をもって秩序をもたらす「完全なアウトサイダー」だったが、今作の三十郎は体制内部に一時的に関わりながらも、決して内部に取り込まれることはない。
彼は教育者として若侍たちを導きながらも、同時に自らの暴力に嫌悪し、「斬りすぎだな」と呟く。彼が「答え」になりえないことを誰よりもよく知っているのだ。もし彼が体制に留まれば、いずれ自らも腐敗する。そのため、彼は去るしかない。「異物」であり続けるために。彼は常に構造の外から介入する存在=問いとしてのヒーローなのだ。
そして、本作でもっとも注目すべきは、“城代”の描き方である。彼の顔が最後まで見せられない構成は、まるでサスペンスのようだ。そしてその素顔がついに明かされる瞬間、観客は「えっ、こんな人物が?」という驚きを覚えるだろう。しかし、この「地味な中年男性」こそが黒澤が示した「統治者の理想像」なのである。
その顔立ちは当時の総理・岸信介を彷彿とさせる。おそらく意図的な造形である。若侍(理想主義者)でもなく、室戸(冷徹な現実主義者)でもない。倫理と知略を併せ持ち、感情を抑え、覚悟ある沈黙と無私の統治感覚で秩序を保つ──その姿には、力ではなく姿勢で国を導く「静かなリーダー像」が映し出されている。
『用心棒』がカオスに秩序をもたらす“力の映画”だったのに対し、『椿三十郎』は、秩序の中に潜む腐敗に対し、倫理と戦略で切り込む“問いの映画”である。黒澤はここで、日本人が忘れた思想──儒教、孫子の兵法、仏教、武士道、神道──を再提示している。
そして最後の一騎打ちは、ただのアクションではない。
三十郎と室戸の斬り合いには武士道の美学が流れている。「納得して死ぬこと」それは、日本人の倫理観の核心である。
いま、日本に必要なのは、果たして三十郎か、それとも城代か?
日本人が忘れたもの。
それでも、必要としているもの。
それが、ここにはそれが描かれている。
4K UHD Blu-ray (クラリテリオン版)で鑑賞
95点
時代劇映画史上不滅の最高峰
人権が尊重された類まれな作品。
椿三十郎と言えばどうしてもJAWSのクイント船長とダブってしまい、両者とも勇ましく、豪快で頼もしく信念があり、その堂々とした様に見入ってしまいます。
唯一の違いは扱い方でありまして、クイント船長は無残にぼろ雑巾の様に亡くなります。
之は欧米人には死に対しての哀れみが日本人程無い点にあるのだと思います。一方、地位もない椿三十郎に対して人間としての尊厳を認めてくれる周りの人々の気高さに心底心打たれます。
此の作品は間違いなく史上最高の映画であり、他に類を見ない至極の名作であり、全ての登場人物が見事でして、それぞれの個性を映画史上類を見ないレベルで生き生きと描いております。
又、白い椿が流れる様の美しさは人間の本来あるべき永遠の感動と同時に儚さの象徴でもあります。
三十郎の捨て台詞「あばよ!」には感極まって泣いてしまいました。
血飛沫匂いたつ剣戟!
監督脚本、黒澤明。
下敷きにしたのはご存知、山本周五郎の『日々平安』の企画。名前出しといて未読ですごめんなさい。
【ストーリー】
古寺。
若い侍たちが、藩の未来を憂いて謀議をしている。
次席家老の黒藤と国許用人の竹林なる二名が、汚職の元凶、その告発状を城代家老の睦田にたくしたとのこと。
睦田にすげなくされ、大目付の菊井に話を持ちこむと、共に決起すると約束してくれた。
これで藩の空気は変わり、よき方向に向かうだろうと安堵する彼らの背後から、素浪人が姿をあらわす。
すわ間諜かと緊張する彼らだが、
「俺はただの宿無しだ。ここで天露しのいでいただけ」
と言う。
混乱する若侍たちに、男はつづけて語る。
「話を聞いたが、俺の見たところ、睦田よりも、お前らをあおる菊井の方があやしい」
その言葉どおり、古寺はすでに菊井の手の者でとり囲まれていた。
菊井こそ、黒藤の間諜だったのだ。
三船敏郎演じる椿三十郎を主人公にした時代劇の第二作め。
今回もあっちこっちに飛びまわりながら、バッタバッタと敵を斬りふせる。
黒澤の殺陣の迫力って、ドアップでワー! 大きい音ガキーン! っていうものじゃなく、十分にカメラを引いて全体を見せ、敵も味方も本当に斬るタイミングで刃をふるう怖さなんですね。
ごまかしが利かない撮り方です。
スローで撮って、早回し再生なんてしない時代だもの。
ラストの決闘も、達人同士の戦いは一瞬で決まるという内容を実際に撮ったっていう、めちゃくちゃハードルの高いシーンですし。
あの血飛沫、忘れられませんなあ。
『侍スピリッツ』っていうゲームが好きで、ノックアウト演出で血飛沫プッシャーあるんですけど、ほんとあのまんま椿三十郎。
自分の覇王丸、よく友だちのナコルルをまっぷたつにしたなあ。ひどいね。
最後脱線しすぎたついでに、すごくどうでもいい話します。
『オタクの用心棒』ってギャグマンガがありまして、その主人公格の一人がモロ椿三十郎なんですね。
こっちもめっぽうおもしろいので、画像検索だけでも、ぜひぜひ。
一将功なりて万骨枯れる
三十郎が行く!鞘に収まらない刀剣の如く・・・
以前、この作品を見るつもりで録画したら、リメイク版の「椿三十郎」でした。まぁ、それなりに楽しめた作品でしたが、織田裕二さんでは、ちょっと迫力不足かな?って感じてたんで、オリジナルへの興味が益々大きくなっていたところ、今回BSでの放送を見つけ、録画して鑑賞です。
内容は、やっぱりリメイクとほぼ同じだったかな。白黒映画で、見るからに古臭いんですが、メチャ楽しく見ることができました。
やっぱり、三船敏郎さんですね〜!イメージ以上に迫力満点。見るからに凄腕の浪人を魅せてくれます。
加山雄三さんや田中邦衛さんの若々しい姿も良かった。
所々コミカルな部分もあって、ホンっと面白かった。
これって「用心棒」の続編になるんですかね。三船敏郎さんは同じキャラみたいですけど。
【ネタバレ】
最後の三船さんと仲代さんの一騎討ちがスゴかった!ほんの一瞬の斬り合いですが、緊迫感がハンパない。血飛沫も凄まじかった。
ホンっと三船敏郎さんは、素晴らしい。まさに、自分の中では時代劇の大スターです。
本作のような腕の立つ侍の知将から、「七人の侍」で演じた農民上がりの侍もどきまで、幅広い殺陣と荒々しい迫力で、時代劇を魅せてくれます。
やっぱりこういう役者さんがいないと時代劇は廃れていっちゃうのかな。寂しい限りです。
椿三十郎殿
やっぱり良いですね、これ
痛快なアクション時代劇の傑作だ。
ある藩で、上役の不正をただそうと立ち上がった9人の若侍が、悪者たちの策略にはまるところを、偶然知り合って聞きつけた浪人が、剣の腕前と持ち前の知略で、彼らに助太刀し、窮地を救う姿を、豪快に描いた痛快時代劇。
黒澤明監督では、「七人の侍」や「用心棒」あたりに比べると、よりストレートで一直線な作品だね。それだけに、ともすると退屈になりかねないストーリーを、ダイナミックかつ、ユーモアにあふれた展開で、十分に楽しませてくれる。
主演の三船敏郎の存在感がすごいし、悪役側の剣豪を演じた仲代達矢も良い。若侍側のリーダー格が、加山雄三。小林桂樹が、滑稽な見張りの侍・木村役で出てくる。田中邦衛など、他の面々にも注目。
正義と悪が互いに騙しあって、なかなかよく練られた駆け引きと、スリリングな展開で、最後まで魅せてくれる。その一方で、ちょっと間の抜けた、ユーモラスな登場人物が出てきたりして、ほっこりさせられる。
浪人は、権力争いに疎く、お坊ちゃん育ちな若者たちを、機転を利かせて救いながら、最後の対決まで、人間味あふれるその姿を、一気に見せてくれる。これは痛快なアクション時代劇として、最高レベルの傑作だ。
私の名は椿三十郎。もうそろそろ四十郎ですが。
感想
山本周五郎原作の「日々平安」からキャラクターを全く新しく入れ替えた形で菊島隆三、小國英雄と黒澤自身が脚本を書き上げ、定石の三船、当時東宝の一推し新人加山をフィーチャーしたベテラン人気俳優と新人スター夢の共演であり、一大娯楽作品に仕上がっている。三船の貫禄が映えるまさに抜き身のままの剣捌きと狼の様な殺陣、睦田夫人との掛合いに代表されるユーモラス且つ侍の人柄が滲み出る元々あった獰猛さを借りてきた猫のように抑えてしまう人間心理の会話の妙と活躍に拍手喝采と笑いが溢れる。最後は映画史に残るそれまであった時代劇のシチュエーションを大変革させたと言われる伝説の決闘シーンが展開する。個人的に黒澤時代劇の最高峰と感じ入る作品。生涯ベストスリー作品
深夜、寺社殿の中で合議を持っている侍達。井坂伊織以下、八名の若き侍達は自藩の藩主出府中に次席家老と国許用人の汚職が発覚した事を井坂の伯父で城代家老を務める睦田弥兵衛に意見書を付け上申したことを話し合っていた。
井坂は他の侍達に語りかける。
井坂「兎に角伯父は判っていない。」
「(睦田)これでもわしは城代家老だ。お前たち
に言われなくともそんな事は既に判っている。」
「それでは汚職を知りながら何故今日まで見逃
してしまったのだ?と訊ねると」
「(睦田はニヤニヤ笑って)おい。俺がその汚職
の黒幕かも知れないぞ。お前たちはこの俺を薄
鈍のお人好と思い案山子代りに担ぎ出すつもり
らしいが、人は御影に拠らないよ。危ない。
危ない。第一、いちばん悪い奴はとんでもない
所にいる。危ない、危ない。」
そう言うと意見書をビリビリと破り懐に入れてしまったという。井坂の話は続く。
井坂「俺は伯父にははっきり見切りを付け、打合せ
の通り、話を大目付の菊井さんの処に持ち込ん
だ。菊井さんはやっぱり話が解る。初めのうち
は困った顔をして御城代とお話の上でと逃げを
打っていたが、城代にもこの話をしたと言うと
吃驚して、暫く考え込んでいたが、よろしい。
この際若い貴方たちと立ちましょう。次は一遍
貴方達と話し合いたい。早急に仲間を集めてほ
しい。」
井坂の話に喜ぶ侍達。
「やはり菊井さんはすごい。」「薄鈍の案山子代
りとは話が違う。」
と談笑していると、奥の間から呆れた感の大欠伸が聞こえる。侍達は急に立ち上がり、奥の暗闇に一同目を向ける。中から素浪人三十郎が現れる。
「おめえ達の話を聞いていると、まったく。」
守島「何!話を聞いていた?!」
と、次の瞬間、刀に手を掛け抜刀しようとする。
「馬鹿野郎。逃げるつもりなら最初から出てくるつもりはないわ。」
井坂「しかし、お前なんだってこんなところに?」
「此処だと旅籠賃は取られねえからな。ところで
おい!盗み聴きって言うのはいいものだぜ。
傍目八目、話している奴より話がよく解る。」
躙り寄る九人の侍達。
「まぁ聞きな。俺に言わせりゃ城代家老が本物でその大目付の菊井って奴は眉唾だぜ。」
保川「無礼を申すと唯では置かぬぞ!」
「まぁ、そうとんがるな。俺は其奴ら二人の面を知らねえ。知らねえから見かけで惑わされる心配がねえ。なぁ。城代はつまらない顔してんだろ。」
と、侍達を見廻す三十郎。
「そうらしいな。しかしな、話から察すると城代は中々の魂だぜ。手前が馬鹿だと思われているのを気にしないだけでも大物だ!ところで大目付の菊井だか、お前たちはやっぱり話せるやっぱり本物だなんて言う処を見ると、此奴はまず御影分には申し分はねえらしいな。しかし人は御影に依らねえよ。危ねえ、危ねえだぜ!」
保川「黙れっ!素浪人の分際で何を言う!」
「待ちな。それは城代の台詞だぜ。いいか。城代はもっとはっきりと言っている。一番危ない奴はとんでもない処にいる。危ねえ、危ねえ。早い話がよ。大目付の菊井が黒幕かも知れねえぜ。」
侍達「ふざけるな!」
「熱くならねえで聞きな。大目付の役目はなんだ。は?ゴタゴタを収めるのが役目じやねえか。それをよ、お前達を焚き付けやがって。変だと思わねえのか!」
三十郎の話を聞き届け渋々座り出す侍達。
「それから、お前達と至急話し合いたいから集まれというのもおかしい。黒幕だったら集めといて一網打尽と来らぁ。兎に角この話は乗らないで様子をみておくんだな。」
井坂「大目付と今宵此処で会うと約束したのです」
「なぁぬにい?」
咄嗟に社殿の四方の節穴隙間から外を見る三十郎。
「傍目八目、ずばりだ。見てみな。」
外には大人数の武装した集団が音を立てずに近寄ってくるのが判る。
「ハハハ。見事に取り巻きやがった。蟻の這い出る隙間もねーや。」
臨戦態勢をとる九人の侍。
「この上まだ馬鹿な真似をしたいのか!刀をしまいな。戦をやってる場合じゃないぜ。」
関口「五月蝿い。お前の指図は受けん!」
「じゃあ、勝手にしろ。皆くたばってせいぜい菊井を喜ばせるこったぁ。」
井坂「しかし、こう取り巻かれては、、、」
「まっ。俺に任しな。」
寺社殿の正面に近づく多くの武装した侍の大集団。集団を率いる人物が
「大目付菊井殿の手の者だ、神妙にしろ。表は固めておる。手向かうと為にならぬぞ。」
中から一人出てくる三十郎。「五月蝿いな!なんだ!」様子を確認しようと傾れ込む侍達。
「やいやい。いい加減にしろ。人の寝所に土足で踏み込む奴がいるか!」
と罵声を浴びせ腕っ節強く一気に三人ずつを交互に瞬時に倒し蹴散らす三十郎。瞬く間に十人程が階下に蹴散らされ押し出される。
「面白え。やる気か。だが気を付けな。俺は寝入り
端を起こされて機嫌が悪いんだ!」
と言った途端二、三人の脇に鞘を差し込み叩き付けて次から次へと薙倒していく。外に出ても勢いは収まらず大太刀廻りを繰り返しあっという間に二十人以上を倒す三十郎。そこへ、
室戸「引け!引けい。手立ては他にある道草を食っ
ている場合ではない。」
と、太刀廻りを制止する一人の侍の声。三十郎を睨みながら近づいて来る。
室戸「それにこの男を片付けるためには大分手間が
掛かるぞ。貴公、なかなか出来るな。仕官の
望あるなら大目付の役宅に俺を訪ねてこい!
俺の名は室戸半兵衛。」
と名乗り翻し去って行くと他の侍達も追随しその場を去っていった。
「もういいぜ。出て来な。」
床板を捲り出でてくる九人の若侍。
三十郎に丁寧にお辞儀をする九人の若侍達。
井坂「何と礼を言って良いか、、、」
間髪入れず、
「礼なんかいらねから少し金をくれないか。」
この一言に驚く若侍達。
「このところほとんど水腹でな。なぁーに一杯飲っ
て飯が食えればいい。」
井坂が自分の財布を怪訝に差し出す。三十郎は必要分の銭だけを取り、
「これだけもらうぜ。じゃあ、あばよ。」
とその場を去ろうとする。それを最敬礼で見送る九人の侍達。その一礼をあらためて見つめる三十郎。
「しかしお前達これからどうする気だ?」
井坂「貴方の話で目が覚めました。早速城代家老
の伯父の処に戻り、不義を詫びその指図に従う
つもりです」
「なかなか聞き分けが良いな。いい子だ。」と子供扱の三十郎。
「待てよ。いけねえ。こうなるとその城代家老が
危ないぞ。俺がもし菊井なら城代を捕まえるね。
一番悪い奴はとんでもない処に居るなんて図星
刺されちゃ放って置けねえ。」
急ぎ立ち上がり去ろうとする井坂と侍達。
「何処に行くんだ。」
井坂「伯父の家に。」
「捕まりに行くのか。お前は正体が暴露ている。
うっかり面みせたらそれっきりだぞ」
井坂「しかしみんな私から、私の間抜けでこんな事に。」
寺田「お前だけの責任ではない。ひとりの勝手な
行動は許さん」
守島「こうなったら死ぬも生きるも我々九人。」
「十人だ!手前らのやる事は危なっかしくて見ちゃ
いられねぇ!」
十人が隠れるように密かに睦田邸に訪れると三十郎の言う通り、菊井の手の者により睦田弥兵衛は拉致され別場所に匿われていた。最初に居場所が判明した睦田夫人(奥方)と許嫁の千鳥を助け出し、弥兵衛拘束の口上を確認、城代家老の睦田に罪を擦り付け、詰め腹を切らす算段である事が判明。城代を無事救出すれば悪事は白日の元にさらされ、城代の名誉は回復すると確信。夫人救出時に一旦捕縛され殺されそうになるも夫人の三十郎への智により命拾いをすることになった木村という侍を人質として汚職の黒幕の一味である次席家老黒藤邸の隣に屋敷を構える九人の侍の一人、寺田文治の邸宅を拠点とし活動を開始する。
黒藤、菊井ら汚職一味は大目付の役職を利用して城代家老不穏の嘘の高札を立て、各方面に囮を出して井坂達の捕縛を狙うが、罠である事が井坂達に判ることになり危く難を逃れる。
藩の世論は菊井達に傾き、策が尽き掛けた時に三十郎は菊井邸に行ってくると言い残して九人の前から居なくなる。残された九人は三十郎を信じる者疑う者に其々別れる。寺田の提案により、公平を期するため信疑者其々二人に任せて三十郎の後を追う。
菊井邸の室戸半兵衛を訪ねた三十郎は室戸の藩乗っ取りの野望を聞かされる。室戸は菊井に三十郎を引き合わせようとして黒藤邸に出かける。その時、三十郎を追ってきた井坂達に遭遇。三十郎の計画は崩れ、四人は捕縛される。四人助け出すために室戸が不在の時に屋敷に残る手勢を全員切り倒す。室戸が黒藤邸から帰ってきた時に捕縛されたまま残された三十郎を発見する。室戸には菊井に推挙は出来ないと言われその場を去る。
ある日寺田邸の庭で千鳥が黒藤邸から流れてきたと思われる、かつて井坂達が睦田に渡した意見書の紙片を発見する。それは黒藤邸の蔵に監禁されている睦田が隙を見て懐に持っていた破った紙片を小川に流したものであった。井坂達は黒藤亭に睦田が監禁されている事を確信する。
三十郎は自ら黒藤邸に乗り込み、自身が街外れにある光明寺の山門で寝ていると多勢で黒藤邸に乗り込む侍達を見たと嘘を吹聴し、応戦の為黒藤の軍勢が光明寺に向かっている間に囚われの睦田を救出する策を考え実行する。九人の黒藤邸への斬込み救出の合図は椿御殿と呼ばれる程に咲いている庭の椿を寺田邸に繋がる小川へ流す事とする。大目付菊井、国許竹林、次席家老黒藤そして室戸が揃う黒藤邸で三十郎は室戸に光明寺の山門の話を伝えた。その頃寺田邸では捕虜の立場にある木村が光明寺には山門が無い事に気づき寺田達に伝える。黒藤邸では三十郎の報を信じた菊井が光明寺へ自ら大軍勢と共に向う。
同じ頃竹林も光明寺には山門が無い事を気づき嘘である事が明るみになる。室戸は庭に三十郎を縛り付け光明寺へ。三十郎は黒藤達にカマをかけ、合図の椿を川に流す事に成功。寺田邸より井坂達が乱入する。菊井、室戸が大軍勢と黒藤邸に戻った時は蔵の中に黒藤と竹林が押し込められ睦田は三十郎達と去った後であった。室戸は菊井に「これまでですな」と声を掛けその場を立ち去る。
睦田は解放後、職務に復帰して今回の事件の処断を行う。黒藤、高井は家名断絶、お家追放となった。菊井は自ら切腹し果てた。室戸は浪人となったが同じく藩を飛び出してきた三十郎と街外れで再び出会い室戸の申し出から果し合いとなる。
そこに三十郎を追ってきた井坂達九人の侍の眼の前で室戸が切られた瞬間!大量の血を吹き出し倒れる室戸とその返り血を浴びた三十郎を目撃する。驚愕し立ち尽くす九人。
三十郎は井坂達に
「気を付けろ。俺は機嫌がわるいんだ。」
そして室戸の遺骸を見つめて、
「此奴は俺にそっくりだ。抜き身だ。此奴も俺も鞘に入ってない刀だ。あの奥方が言った通り本当に良い刀は鞘に入っている。おい!お前達も大人しく鞘に入ってろよ。」
そう言い残し三十郎は去って行く。
追う井坂達。「来るな!追いて来たら叩き斬るぞ!」
土下座し御礼をして見送る井坂達。その姿を見て
一言。「あばよ!」
何処かへ立ち去る三十郎。
⭐️5
シンプルで最高に楽しめる時代劇
黒澤明の作品はまだ数作品しか観ていませんが、他の作品同様とにかくキャラクターの作り方が素晴らしいです。この人はこういう性格で、この人はこういう立ち位置で…という人間関係が非常に分かりやすい上に、それがストーリーに見事にハマる。役者の名演もあって非常に見応えのある作品となっています。
ところどころ挟み込まれるユーモアに富んだ笑えるシーンが面白い!三船敏郎があの渋い顔でお茶目なセリフや演技(やり過ぎず、本当に自然にさりげなく)を観せてくれます。若侍達とのやり取りは時にコントのようなおかしさがありますが、それでいて決して緊張感を崩すことはなく、このバランス感覚が素晴らしいです。
なんと言ってもラストシーン!度肝抜かれます。日本映画史に残る名シーンですね。しかし、後に物議を醸したこのシーン。黒澤明のその後の作品にも影響を及ぼすほどのものだったとか。私は「映画なんだから、このくらいド派手に、大袈裟なくらいの方が…」と思うのですが、だめなん?(・ิω・ิ)
分かりやすいストーリー、個性豊かなキャラクター達、随所に散りばめられたユーモアセンス溢れる演出、圧巻のラストシーン。これぞエンターテイメント映画!
まさに一騎当千。頼りになるとはこうゆうこと
圧倒的な兵力の差がありながら、椿三十郎がほぼ一人で圧勝するストーリーなのだが、途中は大きなピンチもあり、それを打開する策が面白かった。兵力差があるので、知力で上回る必要があり、相手の出方を読んで策を図るところがいくつかあるのだが、それぞれ「なるほど。頼りになるとはこうゆうこと」と感心した。特にヤマ場の椿の花の合図のシーンはよくできていて、うならせる。
加山雄三、田中邦衛らの若侍は、道化役なんでしょう。椿三十郎の知力、剣の技を際立たせる役目を果たしていて、間抜けで浅はか。漫才のボケのように椿三十郎に突っ込まれるのがひとつの型になっているようで面白い。彼らがいることでストーリーがわかりやすくなっていて、映画全体を楽しみやすくしていると思った。
ラスボス役の仲代達也は、目つきが鋭く機敏で、ただ物ではないと一目でわかるのがすごい。最後の一騎打ちの相手としてふさわしい。もしかすると椿三十郎が負けるかもと思わせる迫力がある。
城代家老の奥方がいい味を出していて、意外に魅力的なキャラクター。危機にも落ち着いている器の大きさがあり、本質を突いたことを言う知恵を持っている。
1点減点したのは、主人公の椿三十郎が完璧すぎるところで、いきずりで知り合っただけなのに若侍たちに加担する気質の正しさや、ほとんど褒賞を求めない潔癖さを含め、こんな人はいないだろうと感じてしまう。
説得力があった椿三十郎
ハン・ソロの原型は「椿三十郎」だわ!
「用心棒」でキャラが確立した三船敏朗演じる凄腕の浪人三十郎が
今度はちょっと頼りない若者たちを導きながら悪と戦う話!
いやあ〜〜楽しい〜〜
めっちゃ笑えるし〜〜
流石の殺陣シーンは変わらぬ見事さに加えて
思慮が足りない若者達の右往左往ぶりを
側から眺めてる三十郎の目線が、悪態をつきながらも
結構暖かく清濁併せ呑む人物の大きさが伝わってきて
男が惚れる男!!感が半端ない!!
こんな先輩がいてほしいなあ〜〜
月に8本ほど映画館で映画を観る中途半端な映画好きとしては
たまたま、テレビでスターウオーズ4(第1作)を観たら
ああ、この映画のハン・ソロはまるで「椿三十郎」だわ!!
世間知らずで正義感だけで突っ走る若きルーク・スカイウオーカーを
危なっかしくて観ていられねえ〜〜と
悪態をつきながらもなんやかんやで助けてくれるハン・ソロ!
ほとんど「椿三十郎」の三船だ〜〜
ダース・ベーダーの威圧感は「天国と地獄」の権藤を演じる三船。
冷静にルークを導くオビ・ワン・ケノービーは「赤ひげ」の三船。
J・ルーカスがオビ・ワンやダース・ベーダーを
三船氏にオファーしたのは有名な話だけど
本当にJ・ルーカスはどんだけ三船が好きなんだ(笑)
「用心棒」と「椿三十郎」を入り口に是非是非
世界で絶賛される三船敏朗氏を堪能してみてください。
@もう一度観るなら?
「定期的に映画館で観たい!」
『いい刀はサヤに入って入る。お前たちもサヤに入ってろよ』
『いい刀はサヤに入って入る。お前たちもサヤに入ってろよ』
娯楽作だが、明治維新後の維新政治に対するアイロニーなのかなぁ?と思った。
士農工商の封建主義が崩れ、まるで、士族の地位か崩れ、自由な身分社会になった。しかし、身分制度は名前を変えただけ、相変わらず、旧士族は残るが、幕府がなくなり、士族の思うまま、維新後、士族の暴走のまま、大日本帝国は二つの戦争を経験する事になる。この映画はそれをアイロニーで語っている。やはり、傑作だ。
イデオロギーを抜きに見ても面白い。まぁ、途中から脚本は暴走するが、許せる範囲。
拝啓椿三十郎、いやもうちょっとで四十郎様‼️
黒澤明監督が「隠し砦の三悪人」「用心棒」に続いて映画の本当の面白さを満喫させてくれる娯楽時代劇の決定版。まず冒頭、9人の若侍たちの会話で藩で起きてる不祥事を観客に完璧に把握させてくれる話術の妙(次作の「天国と地獄」では会社の株主の在り方を説明してくれる)、三十郎が追っ手を見事に追い払い、捕まっていた奥方と姫を三十郎が踏み台(三船さんの苦痛顔)になって助け出し、敵方侍の小林桂樹がちょこちょこ押入れから顔を出し、捕まった若侍たちを助け出すための三十郎圧巻の30人斬り、水の流れに乗った白と赤の椿たち、一瞬でキマる三十郎対室戸半兵衛まで、1時間36分がアッという間‼️本当に面白い‼️黒澤明監督にはあと数作娯楽時代劇を作って欲しかった・・・
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