マイティ・ハート 愛と絆 : インタビュー
02年、パキスタン最大の都市カラチで取材中だったウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者ダニエル・パールが何者かに誘拐された――。当時、妊娠5カ月だったダニエルの妻マリアンヌが事件の真実を綴った原作を、アンジェリーナ・ジョリー主演、ブラッド・ピット製作で映画化した話題作「マイティ・ハート/愛と絆」。本作でメガホンを託されたマイケル・ウィンターボトム監督に話を聞いた。(聞き手:編集部)
マイケル・ウィンターボトム監督インタビュー
「アンジェリーナはブラッドに父親としての役割を与えていたよ」
映画は原作に忠実に、原作者でもあり主人公のマリアンヌ・パール(アンジェリーナ・ジョリー)の視点で描かれており、例えばダニエル・パール(ダン・ファターマン)が誘拐されたり、拘束されるような衝撃的な場面であおったりはしない。
「原作を読んだ時、マリアンヌの強烈な個性に印象を受けた。実際の彼女にも会ったけど、並大抵の女性じゃないよ。彼女のパキスタンに対する深い思いや理解も、僕のそれと同じだったし、事件を通した人間関係や人種の関係も含め、彼女はきちんと本に記していた。とてもいい本だったし、自分の余計な思い入れを入れるよりも、彼女の視点で、“マリアンヌの映画”を作ることが一番大切だと思ったんだ」
主演のアンジェリーナ・ジョリーは、ユニセフの親善大使を務めるなど社会的な活動家としての側面も有名。そうした彼女のパーソナリティが、役と合致しているように思う。
「この企画が始まる前から、アンジェリーナとマリアンヌは既に友人だった。マリアンヌも“アンジェリーナに演じてほしかった”と言っていたしね。他の俳優が演じるとしたら、事前の準備がもっと必要だったろうけど、そういう意味では、アンジェリーナにとっては演じやすかったかもしれないね。アンジェリーナ自身も慈善活動家で、マリアンヌと似ているところがあるし、2人とも伝えたいものを明確に持っている。そうした知識や考え方、行動が共通していたから、嘘がなく演じることができたと思う。監督としてはありがたかったね(笑)」
撮影は実際にカラチで行われ、手持ちカメラによる撮影がドキュメンタリーのような臨場感を伝えている。
「カラチは雑然としていて全体的に暗い街だし、人の注目も浴びないようにしなくてはいけなくて、撮影は難しかった。ただ、今までもそうした作品をいくつか撮っているから、技術的には困難だけど不可能じゃないのはわかっていた。でも、パキスタンというのは、ちゃんと筋を通して撮影許可をとっても、そのまますんなりいくことはないので、いろいろなことをクリアにしなきゃいけないから大変だったかな」
本作もまた、近年増えつつある“9・11以降”の世界を描いた作品。「グアンタナモ、僕達が見た真実」や「ウェルカム・トゥ・サラエボ」など、社会派的な作品も手掛けている監督は、9・11の影響を受けていると思う?
「基本的に僕は、人物や物語に惹かれて映画を撮る。そのスタンスは今も変わってないよ。ただ、これまでも9・11に限らず湾岸戦争やベトナム戦争、その他の戦争・紛争があるたびに、それらに影響された映画が作られてきた。確かに、僕の作品にもいくつかそうした社会的影響を受けたものはある。例えば今回描いたパキスタンのような国は、とても複雑で、様々な問題や矛盾を抱えているけど、僕はそうしたことから目を逸らすことができないんだ。映画は世の中を反映したものであるべきだし、反映させずには出来ないものだと思うから、結果的にはきっと(9・11にも)影響されているんだと思う。自分で意識はしていないけどね」
本作のプロデューサーを務めたのは、言わずと知れたアンジェリーナのパートナーであるブラッド・ピット。2人の共同作業は?
「撮影前に、ロンドンにあるプランB(ブラッド・ピットの製作会社)でブラッドを含めたプロデューサーたちとミーティングしていて、オフィス内で2人が話している姿も見ているけど、そこで特に何かあったということはないな。実際の撮影に入り、ブラッドも現場に来たこともあるけど、アンジェリーナは彼に対して、どちらかといえば父親としての役割を与えていたよ。プロデューサーというのは事前の準備が一番大切な仕事だから、撮影が始まったら、後はもっぱら子供の面倒を見ていたみたいだよ(笑)」