「抜け出せないのは部屋か過去か」1408号室 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
抜け出せないのは部屋か過去か
勝手にキング原作映画特集その9。
今回は『1408号室』!
主人公マイクは心霊スポット取材本で生計を立てているライター。
幽霊など本当は存在しないとタカを括る彼の元にある日、
NYの老舗ホテル・ドルフィンホテルのポストカードが届く。
カードには一言、「1408号室に入るな」という殴り書きのみ。
興味を引かれたポールは“取材”の為、ドルフィンホテルの
1408号室にチェックインするが……
キング原作+ホテルとくれば、
やはりホラー映画ファンが期待するのは
あの金字塔的傑作『シャイニング』だろうが、
本作はそちらとはずいぶん恐怖の毛色が違う。
『シャイニング』の恐怖はじわじわ
身内に染み入るような性質のものだが、
『1408号室』はジェットコースターに近い感覚。
怪現象は派手で映像のテンションも高く、種類も豊富だ。
『パラノーマル・アクティビティ』みたいなビックリ箱的
演出が少ないのも、この手の映画としてはちょっと珍しい。
単なるコケオドシに頼らず、“何かがいつの間にか恐ろしく
歪んでいる”という不安を掻き立てるような演出や
(トイレットペーパーのアレなんて地味だが怖い)、
主人公の過去を抉る“悪意”を感じさせる点が実に不気味だ。
ひとつひとつの恐怖演出が丁寧に描かれる訳では無いので、
全体的な恐怖度は薄めかな。代わりに「次はどんな
アイデアが飛び出すか?」というワクワク感がある。
ただ、そのスピーディな展開が終盤で失速してしまう
点は惜しい。マイクの亡き娘をめぐるドラマにも、
あと一歩踏み込んだ決着が観たかった。
さてこの映画の原作、元々はかなり短めの短編である。
原作を忠実に映像化したら『世にも奇妙な物語』の
一編くらいの尺にしかならないだろうなので、
この映画化に当たっては話を盛りに盛っている。
1408号室内で起こる怪現象は殆どが映画独自のものだし、
『娘を亡くした』という主人公の設定も原作には無い。
その分、原作既読の方でも楽しめるのは良い所かも。
主演ジョン・キューザックの神経衰弱っぷりはなかなかだし、
元は“付け足し”だったドラマパートが多少なりとも説得力を
持つのは、彼のどことなく虚ろな表情があってこそだと思う。
出番も役割も少ないが、存在感抜群の
サミュエル・L・ジャクソンも良いね。
ミステリアスでエレガントな雰囲気が良い。
という訳で、観て損ナシの良作です。
原作ファンもそうでない方もご鑑賞あれ!
<了> ※2012.11初投稿