「大変という大前提。」劔岳 点の記 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
大変という大前提。
まだCGなど存在しなかった時代、
過酷な風景を作るなら、実際にそこで撮るしかなかった。
監督、俳優、スタッフ全員で苦労を重ねても、満足のいく
映像が撮れるのは、ほんの稀な時間だったに違いない。
それでも観る方は、それが当り前だと思っていた。
リアルな映像しか有り得なかった時代に、それを謳うため
やれ、ハリウッドに比べてチャチだ、屑だ、と言われても
少ない製作費で(汗)それなりに邦画は頑張ってきたのだ。
それが今になって、
当たり前にあり得ない映像が観られるようになってくると、
こういうリアルな映像美に人間は惹かれ始めるのだろうか。
不思議だなぁーと思う。が、私のような(特撮も好きだけど)
リアル全盛時代の映画を観てきた人間は、やっぱりこれが
カメラマンの、撮影監督さんの、仕事なんだよなぁと思える。
以前に女性カメラマンが撮った映画を観た時もそう思った。
プロの仕事は、絶対に負けてないのだ。その分野では。
この映画の宣伝は、イヤというほど見てきた(爆)
んまぁ~よく喋る監督さんだ。怖いくらいガナリっぱなし。
主演の浅野忠信が、出演を打診された際のエピソードでも
「考えさせてください」と言ったところ「ハイ、やります!」と
とられたんだそうだ^^;しかも彼の作品など一本も観ずに
雑誌の表紙で決めた!というのだから凄い^^;千里眼か?
でも各々のエピソードを聞けば聞くほど面白く、興味がわく。
どんなに過酷な現場だったか、想像するだけで怖いくらい。
俳優は、おそらく山岳会のメンバーでは、ないので^^;
それが、担いで登って、落ちて、登って…演技。するのだ。
皆さん(監督もね)本当にお疲れさまでした。しか言えない…。
映像の素晴らしさと、スタッフ、俳優たちの苦労を思えば(爆)
本当にいい映画でした。と締めくくりたいところなんだけど、
残念なことに観る方は、果たしてそんな苦労よりも仕上がりだ。
シェフがどれほど素材にこだわろうが、美味しくなければ終わり。
どんなに撮影に苦労した映画も、作品の出来如何がすべてだ。
撮影面では威力を発揮した監督だったが、演出面では今一歩。
もっと深いドラマに出来ただろうに~!と思うと非常に惜しい。
あんなに過酷な山を命を賭して登ったのに淡々としている浅野、
高山でも演技が衰えない香川、チラ出でも存在感の役所など
巧い俳優と、いい場面が揃ったが、見せ場と纏まりに欠ける。
やっぱり山を撮る方に全霊を向けちゃったあたりが惜しいのだ。
(適材適所。もの作りはそのすべてが叶って完成度を上げる。)