スカイ・クロラ The Sky Crawlers : 映画評論・批評
2008年7月29日更新
2008年8月2日より渋谷東急ほかにてロードショー
何かのために生きる覚悟を新たにした作家の姿が垣間見える
永遠の平和。生を実感するためにショーとしての戦争を維持するキルドレ。彼らは戦闘機に乗って戦う宿命を背負い、殺されなければ思春期のまま生き続けるーー。平和憲法に守られ爛熟したこの国で、果てしない日常を送り続け、アニメやゲームの中で戦争シミュレーションを繰り返し、その中では何度でも死ぬ世代の映し鏡として魅力的な設定だ。地上を2Dアニメ、空中戦を3DCGで描き分け、空にいるときだけ何もかもがリアルで、死に直面してまざまざと生を感じるという演出が冴えわたる。
淡々とした地上で、押井映画史上最も切ない恋が芽ばえる。自身の生を確認するかのように相手の人生に介入するほのかなエロスは、肉体をも貪る愛へと発展する。そして主人公は、運命を変えるため“見えない敵”に立ち向かう。その先にあるものはリセットか、ループか。
同様に今の日本をモチーフとし、狂おしいまでの想いが世界を揺り動かす「崖の上のポニョ」と本作は、ポジとネガの関係にあるといっていい。「永遠」を打ち破るための「テロ」というテーマから、押井の過去作との繋がりを見出すのはたやすい。だが重要なのは、諦観や厭世観に満ちていた作品と異なり、かすかな希望の匂いがすることだ。生をいとおしみ、人肌を欲する感覚。シニカルな生き様を脱し、何かのために生きる覚悟を新たにした作家の姿が垣間見える。押井の新境地は、思想家がエンターテイナーへ変貌したかのようにエモーショナルだ。
(清水節)