劇場公開日 2007年8月25日

「ムーアの真摯な姿勢が胸に迫る1本」シッコ ダース平太さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ムーアの真摯な姿勢が胸に迫る1本

2007年8月26日

泣ける

怖い

知的

 何とも恐ろしい映画だ。本作は、"健康"という誰にでも関係のあるキーワードが関わっている作品だが、"改革"の名の下、年次改革要望書というアメリカからの"お達し"でアメリカ型の社会を目指す日本に暮らす僕らにとっては、まったく他人事ではない。そして何より、金儲けのために、人の命や健康が見捨てられているアメリカの異常な現状に反吐が出る。

 そもそも何故アメリカの政治家が国民皆保険制度の導入に反対をしているのか、その詳細については実際に映画を観ていただくとして、彼らが主張するのは「国民皆保険制度なんて、共産主義のやること。赤だ!」という大原則・・・呆れてものも言えません。

 しかし、そんな異常な状況を観衆に分かりやすく伝え、かつ冷静に判断してもらえるよう、ムーアは国民皆保険制度が導入されている諸外国の実情を現地に取材して、丹念に、そして真摯に調べ上げている。そこには、独自の調査をあまり行わず、ありもののデータを使って作り上げた「華氏911」(原因は、大統領選までに仕上げないといけない、という時間の制約だと思うけど)と比較して、映画作家として格段に成長したムーアの成熟が感じられるのだ。必見の1本。

ダース平太