「ムーアのステップアップとヒートダウン」シッコ Billyさんの映画レビュー(感想・評価)
ムーアのステップアップとヒートダウン
マイケル・ムーアと言えば、『ボウリング・フォー・コロンバイン』で全米ライフル協会会長でオスカー俳優でもあるチャールトン・ヘストン邸にアポなしで乗り込み、「なぜ発砲事件の悲しみに明け暮れる町でライフル協会の大会を緊急開催したのか」と詰問する姿が印象的だった。思ったことをストレートに行動に移し、不条理な出来事への憤りをあからさまに表現し、無骨に図太く取材を進めていく、あの“アツさ”が大好きだ。
しかし、『華氏911』、そして本作へと進むにつれ、ムーアのアポなし取材はさほどの強烈な印象は受けなくなった。ムーアの作るドキュメンタリーは、問題の核心に迫るためのベストな構成や盛り上げ所の的確さ、編集技術など、作を重ねるごとに秀逸になり、巧くなっていった。が、温度が下がっていった気がする。“華氏911”だなんて、言っちゃいられないくらいに。もちろん、取材相手がムーアに対し大いに警戒して、やりにくいのかもしれない。しかし、あの憤慨するムーアの表情こそ、彼の持ち味なのに・・・。
今回のムーアのターゲットは医療制度。相変わらず巧いムーアの演出力(または編集力)により、言いたいことはストレートに、分かり易く伝わってくる。ただ、やはり何か物足りない。フランスと自分の国の医療制度の差異を知った時のムーアの、羨ましそうな表情は印象的だったが、やはりどこかクール過ぎる。ムーアは、アツくないと!
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