「可もなく不可もなく。 ※重大なネタバレはなし」ゾディアック alalaさんの映画レビュー(感想・評価)
可もなく不可もなく。 ※重大なネタバレはなし
ずっと前から気になっていたもののレンタルまでは至らず、今回Gyao!で無料配信されたのを機に視聴。確か『コラテラル』のレビューにも書いたけど、マーク・ラファロが好きで、それ目当てで見ました。
ストーリーは想像通りというか何というか、ありきたりの展開で、期待を超えることはありませんでした。実際にあった事件なので、ありきたりも何もないはずなんですが、何となくこう…クライムサスペンスとして整い過ぎているというか。
未解決事件がベースなので、犯人ははっきりとはわかりませんし、連続殺人事件の話なのでもちろん明るい雰囲気でもありません。それを知ったうえで見れば、別に酷評するほどでもない「普通」の作品です。
どんな事件だったのか掻い摘んで知りたい人には良いのかもしれませんが、映画としてはあまり起伏がなく、最初の方は特に進展もなくただ登場人物がワタワタしているだけとも取れ、さっそく間延びしているように感じる人もいるかも。その割に後半は突然主人公が覚醒し、急激に進展する。何故急に?
クライムサスペンスとしては、流石に実際にあった事件なだけあり情報は細かく描写されているのですが、主人公が何故そこまで入れ込んだのかもわからないし、見ていていまいち入り込めませんでした。最初はただパズル好きが高じて暗号解読に精を出してただけじゃなかった?
つまらないわけではないんですが、コレといったシーンがあるわけでもない、思い入れるほどのキャラクターもいない、という全体的にぼんやりとした印象。
ちなみに本作は157分でボリュームも結構あります。サクッと事件をおさらい…というほど短い時間でもないのがまたネック。今となっては(信用に足るかどうかは別として)ウィキペディアがあるしな。
あらすじ:
1968年。町外れで若い男女のカップルが射殺される事件が起きる。そしてその後、犯人を名乗る男がその事件の詳細と暗号文を、新聞社各社に送り付けてくる。何度かやり取りをするうち、犯人は
自らを「ゾディアック」と名乗り、次の犯行予告をしたり、電話をしてきたりとヒートアップしていく。主人公のグレイスミスは、新聞社で風刺漫画を描くしがない漫画家だったが、勤め先の新聞社にもゾディアックから手紙が届いたことがきっかけで徐々に事件にのめり込んでいく。
ゾディアック事件は、1968年~1974年にアメリカで実際に起きた連続殺人事件で、ロバート・グレイスミスという風刺漫画家がサンフランシスコ・クロニクルという新聞社に在籍していた時に事件が起き、関心を持ったとのこと。そして、そのグレイスミスが1986年に出版し、ベストセラーとなったのがノンフィクション小説『ゾディアック』で、更にその本を基に2007年に公開されたのが本作。作中でも「グレイスミスが『ゾディアック』を出版しベストセラーに…」というくだりが出てきます。
もちろん本に書いてあるのはグレイスミスの独自の調査に基づく推測であり、事実と認められた内容だけではありません。ラストで犯人はほぼ確定のように書かれていますが、それも彼がそう信じているというだけ。だからノンフィクションといえど、全部が全部事実とも限らない(撮影にあたり、監督がきちんと関係者にインタビューはしたようですが)。
一応、作中でも警察のゾディアック事件担当やグレイスミスが、自分が怪しいと思っている容疑者を犯人にしたくて仕方ない、強い思い込みがあることを示唆するシーンが出てきますが、ラストでは「ほぼ犯人はこいつで間違いない」というような書き方をされています。が、2002年のDNA鑑定では、ゾディアックからの手紙の切手についていた唾液と、容疑者の唾液のDNAは一致しなかったとか。
確かにこの容疑者、犯人と同じ物をいくつも所持していたり、事件現場と近い場所に職場があったり、過去の発言からも限りなく怪しいけれども筆跡鑑定では悉く否定され、ゾディアックから電話を受けた人は「(容疑者とは)声が違う」と証言するなど、確たる証拠はないという状況が現在まで続いているそうです。
映画.comの説明には『周到に用意した手掛かりで人々を翻弄する連続殺人犯“ゾディアック”に挑み、人生を狂わされた4人の男たちの姿を描き出す』と書かれていますが、『人生を狂わされた』とまで言えるかどうか…別にゾディアックに何かされたわけでも何でもなく、確かに翻弄はされてるんだろうけど、ほとんどが自分で勝手に夢中になって、入れ込み過ぎて破綻しただけ。
特にRDJ演じる敏腕記者ポール・エイヴリーに至っては、ただただ勝手に盛り上がって勝手なことをして勝手に失敗し、いじけて勝手に堕落しただけ。マーク・ラファロ演じるデイブ・トースキー刑事は、刑事ならこんなもんだろうという程度のことしか起きていないし、ジェイク・ジレンホール演じるグレイスミスは、それこそ勝手に事件に入れ込んで家族を危険にさらした結果、家族に捨てられただけ。更には本出版して稼いでるわ、映画の原作になったことで脚本家と並んで賞まで取っているわで、「狂わされた」と文句言うような人生か?いや、別に本人が「人生を狂わされた」と文句言ってるわけじゃないんだろうけど。
「サスペンスではあるが、実話ベースで犯人もわかっていないので、どちらかというと人間ドラマがメイン」と紹介する人もいましたが…うーん。別に感動もしないし、友情っぽいものがあるわけでもなし、得るものがあるわけでもないから、人間ドラマとしてなら良作!とも言えず。それならサスペンスと言っておいた方がまだマシというか。
ただ、最初から最後まで何か起こりそうな、仄暗い不気味な雰囲気が漂っているのはなかなか良かったです。見覚えのあるこの雰囲気…そう、あの伝説の『セブン』や、自分も過去にレビューを書きました『ゲーム』の監督、デヴィッド・フィンチャーの作品でした。あぁ~。
彼の作品は結構見てるんですが、言ってしまえば「雰囲気で乗り切ってる」感の強い監督でして(何様だ)。
本作は実話ベースということで、実際に目撃者や当時の捜査官、生き残った被害者達にインタビューを行うため18ヵ月の歳月を費やしたそうで、一応本を丸々鵜吞みにしたわけではなさそうなのが救い。2007年当時としては、ある程度正確な情報で作ったのかもしれません。
また、昔の映画にありがちな同性愛者イジリや黒人差別も健在。2007年…まだそんなあからさまに言ってた時期ですよ。証拠もないのに殺人鬼はとりあえず黒人と決め付ける、変質的な犯罪者だとわかるととりあえず同性愛者呼ばわりする、などなど。ウワァ。
表立って言わなくなっただけで、今現在も民衆の理解度に関しては大して変わってないと思うけど、オイオイそりゃないだろと辟易するようになった自分を基準に、社会も一歩くらいは前進してるのかなと思いたい。
俳優陣は、今となっては日本でも(主にMCU関連で)割と有名になった人達をメインに起用していますが、2007年当時は日本じゃ全員「ダレ???」って感じだったんだろうなあ。
個人的にはジェイク・ジレンホールがあまり好きではないので、見る前に主役がジェイク・ジレンホールってだけで何となく見る気が失せてたんですが、本作でもやっぱり演技が微妙に感じました。RDJもあまり好きではないんですが、本作での演技は良く、なかなかにハマり役だったので余計に落差を感じてしまい…
RDJはアベンジャーズシリーズに引っ張られるように突然日本でも有名になりましたが、『アベンジャーズ(2012)』以前の単独作『アイアンマン(2008)』では日本では全く知名度がなく、アメリカ人にとっては当時既に「『あの』ロバート・ダウニーJr.!」という感じだったようですが、日本人は正直「ダレ???」でしたよね。『アイアンマン』の日本での興行成績を見ても、あんだけ金かけて作った作品なのに惨敗だったし…
マーク・ラファロも当時既に受賞経験のある俳優でしたが、日本では全然知名度なかったし。
正直自分もアベンジャーズシリーズで見ていた時には、RDJ何でそんなに崇拝されてんの?という感じでした(何様だ)。アメリカでは"The King"と呼ばれているとか何とか。ヘー。
マーク・ラファロはうまいと思ってたけど、RDJはまったくのノーマークでした…
本作のRDJは、堕落して飲んだくれになってからが本領発揮という感じで、言っちゃ悪いけど、さすが実生活で薬物中毒者だっただけあるなと。正直、翌年以降のアイアンマンとしての演技より、こちらの方がハマってたかなと思います。本人は嬉しくないかもしれませんが…RDJの話になると何でこんなにサゲコメしかできないんだろうな。ゴメンRDJ、あなたは何も悪くない。
全体的に、実際のゾディアック事件に興味ない人は別に凄く面白いわけでもなく、雰囲気作りの得意なデヴィッド・フィンチャー監督の雰囲気に浸って「何か真面目な作品見た気がする…」と自分に酔うには良いけど実際には何も得られない、そんな映画(最悪の締め)。