「役者はいいけど、ノーランはワンパターン。」プレステージ trekkerさんの映画レビュー(感想・評価)
役者はいいけど、ノーランはワンパターン。
DVDにて鑑賞。
メジャー大作『バットマン ビギンズ』を成功させたクリストファー・ノーラン監督が、美男美女のスター俳優を揃え、製作、監督、脚本も兼ねた渾身の1本。それだけに、ノーラン監督の趣向や実力がはっきりと出ている作品だともいえる。
良かったのはメインの俳優陣の配役と演技。もともとコスプレさせたら右に出るものがいないヒュー・ジャックマンの貴公子ぶり、ノーランお気に入りのクリスチャン・ベールのダークな魅力。二人の明と暗とでもいうべき人間性をうまく対比させながら描いている。そして、スカーレット・ヨハンソンのいかにもという子悪魔的な役どころ、マイケル・ケインのいぶし銀の演技と、デヴィッド・ボウイの変人科学者ぶり。スター俳優たちの魅力をうまく惹き出しているのはノーラン監督の手腕といえる。彼らの演技を観るだけでも価値はある。
問題はノーランの脚本と演出スタイルで、さすがにワンパターンを感じざるを得ない。時間軸を崩し、観客を不安な気持ちにさせ、今回は奇術という形で観客を驚かす。結局、ノーランの興味は観客をいかに驚かすか、観たことのない映像をみせるか、ということに終始しているようである。
今作の場合も、奇術の見せ場中心の構成になっていて、肝心の二人のバックボーンが描かれない。そのため、なぜ、彼らが肉体的にも傷つけあい、命を落としかねないような行為をし続けるのかが観客に提示されない。ヒュー・ジャックマンが妻を殺されたという恨みを持つのはわかるが、クリスチャン・ベールの方はなぜ、またその仕返しをするのか疑問。作品によっては時間軸を崩すスタイルが功を奏すが、今作ではそのためにかえって主人公二人の心の葛藤が描かれず、感情移入できなくなってしまっている。
また、「妻の手首をどう結んだか」という事が重要なキーワードだが、今作の描き方では妻の死体が目の前にあるんだから、その腕を確認すればすむことだ。そして、作品上の重要ポイントとなる二人の秘密のタネあかしだが、原作を読んでいない私でもクリスチャン・ベールについてはすぐに感ずいてしまった。ヒュー・ジャックマンの方については、まさかそんなSFオチにするとは思わず、笑ってしまった。原作も同じだから仕方がないが、それをどう表現するかが監督の演出力だろうと思う。何もかも、伏せ札にしようと最低限のキャラクター描写がなされていないのが、今作の最大の欠点である。
女性の立場としては、奥さんとヨハンソンの描き方にも違和感を感じる。別の人間だったら、その男性を本当に好きな女性ならわかるだろう…。
俳優陣の魅力で最後まで観れるが、ノーランにはチョイ冷めである。