監督・ばんざい! : インタビュー
北野武監督インタビュー
――近い将来、映画からも逃げてしまうのでしょうか?
「映画からも逃げようかなと思ってたんだけど、これ撮ってる途中に、また何本かネタが出来てね、それやらなきゃなって感じがあるから。2〜3本脚本も書いたんで、それを撮ってるうちにくたばってしまうんじゃないかな。あと、今後の構想で絵画に関係する話があって、いま絵を描いてるんだけど、中学生くらいまでの絵が実に上手いんだね。自分でも感動するくらいいいんだよ。ところがね、その絵画の話の中では、美術学校に行って、デッサンとか色々習ったあとで、写実的な絵を描くようになるシーンがあって、その絵も自分で描きたいんだけど、それが基本的な技術がないから駄目でね。一気にキュービズムに跳ぶといいんだけど、その間の印象派とかがとにかく描けないんだよ。いまTVでアートの番組を持ってるからかも知れないけど、アクション・ペインティングみたいなのもいいなって思ってるんだよ。偶然によっての産物みたいな絵の描き方が、漫才師と同じじゃないかなって思うんだ。やたら下らないことを思いついて、将来はアクション・ペインティングで如何に間抜けな絵を描くかっていうことにちょっと希望を見いだしているんだ(笑)。だから、絵を描くことは逃げ場でもあるよね。映画よりもちょっと面白いかもしれないね」
――俳優からも逃げることはあるのでしょうか?
「俳優としては、晩年の丹波哲郎さんみたいにカンペ無しではやらないっていうのはいいね(笑)。丹波さんの出てるビデオで、丹波さんの顔を見てると、上見たり、下見たりで、目が動いてて、いま台詞読んでるなって分かって、可笑しくて仕方ないんだよ(笑)」
――キュービズムの話が出ましたが、ピカソに“青の時代”、“キュービズムの時代”、“シュルレアリスムの時代”と色々な時代があったように、北野監督もやはり現段階を映画監督のキャリアの変換期と感じているのでしょうか?
「『監督・ばんざい!』は、ピカソでいうと、キュービズムに行く前の地点だね。俺の映画監督のキャリアは、『監督・ばんざい!』から変わるっていうところにいると思う。他の例えをいうと、ボブ・ディランがエレキギターを持ったような感じだよね。今回の映画は無茶なんだけど、俺は割と好きな映画なんだよ。下らないといえば下らないけど、下らないっていうのはお笑いにとっては褒め言葉で、ありがたいんだよ」