コマンダンテ : 映画評論・批評
2007年5月22日更新
2007年5月26日よりユーロスペースほかにてロードショー
言葉に込められた時間と思想とが、激しく火花を散らす
基本的に喋りが多いドキュメンタリー作品の中でも、「プラトーン」や「JFK」で知られるアメリカ人映画監督オリバー・ストーンが、キューバのカストロ首相にインタビューしたこの映画ほど、言葉が飛び交う映画は少ないだろう。何しろ通訳の言葉も、すべてそこに入り込んでいるのだ。したがって映画を見る私たちは、英語での質問、その通訳、スペイン語での答え、そしてその通訳を聞くことになる。そしてその間にある質問者と通訳、回答者と通訳のやり取りも。単に、知りたいことがあり、そしてその答えがあるだけではない。それがこの映画の最大のポイントである。
たとえば、アメリカとキューバの間でこれまで起こったさまざまな出来事。世界を揺るがし、人々を不安と興奮の嵐の中に巻き込んだ多くの事件。その歴史が、2人の会話の中で穏やかかつ騒がしく再現される。質問とその答えという形式はとっているが、それらの言葉に込められた時間と思想とが、激しく火花を散らす。しかしだからこそ、そこには「通訳」が必要なのだとこの映画は示す。終盤近くになってオリバー・ストーンは、2人の間には愛があると、しつこくカストロと通訳に食い下がる。そのとき突如として浮かび上がる「通訳」としての「愛」。この映画を見る誰もが、2人の表情に目を見張るはずだ。それこそ全世界が今、求めているものだろう。それがここにある。
(樋口泰人)