旅芸人の記録

ALLTIME BEST

劇場公開日:

解説

『再現』、『1936年の日々』に続く第3作にしてアンゲロプロス監督が独自の手法を確立、ついに日本で初公開された伝説の傑作。他国の干渉や国内の政権交代に揺れる激動のギリシャで、たったひとつの劇「羊飼いの少女ゴルフォ」を演じて廻る旅芸人一座の39年から52年までの愛と裏切りの日々がギリシャ悲劇になぞらえて描かれる。1カット内で時代が進み、また遡るという3時間54分が、難解という解釈を超えて息を飲ませる、映画ファン必見の1本。

1975年製作/232分/ギリシャ
原題または英題:O THIASSOS
配給:フランス映画社
劇場公開日:1979年8月11日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第3回 日本アカデミー賞(1980年)

ノミネート

外国作品賞  
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映画レビュー

2.5仙台東宝で鑑賞

2024年6月2日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

大人ぶって見たけど、何も分からなかった

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ムーラン

5.0ヤクセンボーレ!!

2024年3月29日
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鑑賞方法:DVD/BD
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マサシ

4.5流浪、翻弄

2022年11月24日
iPhoneアプリから投稿

旅芸人の本質は流浪だ。街を流れ、文化を流れ、歴史を流れる。どこにも定住することがない。アンゲロプロスは彼らのその流浪性を通して戦中〜戦後のギリシャが辿った政治的変遷をフラットに眼差す。人民軍と王党派が夜の市街地で一進一退の攻防を繰り広げる傍らでいそいそと逃げ支度に勤しむ旅芸人たちの姿は、政治という大きな主題が常に取りこぼしてきた声なき人々の存在を表象している。しかし第二次世界大戦が終わってもなお止むことのない政治の嵐は、永遠の流浪者である旅芸人たちをもその渦中に巻き込んでいく。地下ゲリラ活動に励む座員や、それを秘密警察に密告する座員。裏切りに次ぐ裏切り。一座は次第に人数を減じていく。それでも旅芸人は興行をやめない。あるときはギリシャの小さな街の人々の前で、あるときはミサイルの降り注ぐ戦火の教会で、あるときは海辺にたむろする横柄なイギリス兵の前で、彼らは滑稽な演目を披露し続ける。何者でもない彼らが二元論的政治世界を乗り切るためには、バッグの中の衣裳道具を引っ張り出して「私たちはしがない芸人なんです!」と必死の釈明を垂れるほかに生存の手立てがないのだ。

アンゲロプロス作品の醍醐味である超ロングショットはキャリア3本目の本作にして既に境地に達している。そこでは時空の境界は緩やかに融解し、じっと目を凝らせば数多の歴史的オブジェクトが幽霊のように画面を揺蕩しているのが見える。また、長回し以外にも、人民軍派の女がカメラに向かって王党派の悪辣を7分にもわたって告発する擬似ドキュメンタリー演出や、最後のシーンが最初のシーンと円環的に繋がるループ演出などは、昨今の映画界のモードを予示したかのように明敏で鮮烈だ。私が個人的に好きだったのは、旅芸人たちが海辺でイギリス兵たちと緊張感溢れる文化交流に及ぶシーンと、親族がイギリス人と結婚することを嫌悪した少年が大テーブルのクロスを引っ張ってそのままどこかへ歩き去っていくシーンだ。このように、一生に一度拝めるかどうかというレベルで素晴らしいショットが次から次へと展開されるものだから、アンゲロプロス映画を見るときはかなりの体力と精神力が要る。4時間の長丁場ともなれば視聴後の疲れはひとしおだ。しかしまあどうしてこんなに長い作品に仕上がったのだろうと思っていたところ、ギリシャ文化に精通している(というかほとんどのアンゲロプロス作品の翻訳字幕を手がけている)池澤夏樹が本作の長さについて以下のように述べていた。

『旅芸人の記録』の時間は激烈で暴力的な歴史の時間である。個人の時間はすべて歴史の中へ引きずりこまれ、分断され、ねじまげられている。もう個人の生涯を通じて歴史を辿るような悠長なことはできない。時間は物語の枠組ではなく、最も横暴な主人公となる。あの映画の複雑きわまる時間処理の意味はここにある。

(池澤夏樹『シネ・シティー鳥瞰図』所収「メロドラマの長さについて」より抜粋)

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因果

4.5アンゲロプロス監督の演出力に圧倒される、政治と人間を描いた映画の真骨頂。

2021年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1979年の洋画界は久し振りに充実したラインナップを揃えて、映画好きには歓喜に溢れた年になりそうだ。今の時代を描いた新作ではないものの、時代を超越した優れた映像作品の良作に恵まれた一つの要因は、昨年のルキノ・ヴィスコンティ監督作品「家族の肖像」のヒットが大きい。派手さが無くても本当に良い作品が興行面で採算が合わなければ、日本公開に結び付かない。20年以上の旧作でデンマークの巨匠カール・テオドア・ドライヤーの純度極めた映像世界「奇跡」に始まり、ヴィスコンティの遺作「イノセント」が初公開され、同時に処女作の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」も漸く日の目を見ることが出来た。続くエルマンノ・オルミの「木靴の樹」のネオレアリズモの伝統が息づく映像遺産の力量に感銘すると、このギリシア映画の力強い映像に圧倒されるに至る。そこに、アラン・レネの「プロビデンス」とジョージ・ロイ・ヒルの「リトルロマンス」にモーシェ・ミズラヒの「これからの人生」が加わるのだから堪ったものではない。

この作品の優れていることは、何よりもまず芸術とは最終的に相容れない関係にある政治を題材にして、それをギリシア演劇に昇華した特異なスタイルにある。政治を扱うとどうしても物語の内容より政治的なメッセージが上回り、映画としては破綻しかねない。人間を描くことより、一定の思想を述べることは、映画の理想からは反する。更にワンショット・ワンシークエンス手法のカメラワークを持続するアンゲロプロス独自の演出法が、上映時間4時間にも及ぶ拘束を強いるのにも関わらず、全く飽きさせず最後まで魅せる演出力は驚嘆に値する。このような映像体験は滅多にできるものではないし、また何度も繰り返すことも困難であろう。その意味で一期一会の映画鑑賞として、これは歴史に残る傑作であるし、だれも真似が出来ないテオ・アンゲロプロスの孤高の映画作品である。
特に印象に残るシーンは、ラスト近くの同じ混乱の時代を生きた姉エレクトラたちに拍手を持って見送られるオレステスの埋葬場面だ。戦い続ける民衆に潜む底力がひしひしと感じられる。政治の乱れで命の危険を経験することのない日本人には理解しきれないかも知れないが、人間としての迫力がある。エレクトラの妹クリュソテミが米兵と浜辺で華やかな結婚式を挙げるシーンも印象深い。沈黙の抵抗をする息子が演劇的な演出で施されている。引き剥がされて行く、真っ白で長いテーブルクロスが彼の心情を代弁する。

政治と人間を描いた映画の真骨頂。ギリシアの地が生み出す演劇映画の力強い主張と特殊な表現法を持続した演出の吸引力。全てにおいて孤立の映画芸術を感じさせる。映画史にまた新たな名作が誕生した。

  1979年 9月21日  岩波ホール

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Gustav