「タイパなんて言葉がなかった時代の物語」ストレイト・ストーリー TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
タイパなんて言葉がなかった時代の物語
今年他界した鬼才デヴィッド・リンチ監督の、実話を元にしたロードムービー。
自分も健康体じゃないくせに、疎遠だった兄が病に倒れたことを知って遠路会いに行くアルヴィン。
交通手段は小型のトラクターに荷台を繋いだだけの即席のキャンピングカー。
時速はわずか8㎞。成人男性の歩行速度の倍なので、自転車の方が絶対に速いし、実際に途中でロードレースの集団に軽々追い越されていく。
自動車での移動ならすれ違うだけの人たちと出会いを重ね、時には見知らぬ人の暖かさにも支えられる。
劇中で語られる身の上話や家族の思い出は楽しいものばかりではない。戦時中の辛い体験はモデルとなった人物の実体験なのだろうか。
それらのエピソードを回想シーンにして涙を誘うこともなく、淡々と物語は進む。
宗教的寓意が込められているようにも感じるが、そんなこと分からなくてもいい映画。
道中で交通事故死した鹿から拝借した角を取り付た荷台が、何だかカタツムリみたい。
アルヴィンを演じたのは、西部劇隆盛の頃から活躍したベテラン俳優リチャード・ファーンズワース。
序盤で役に立たなくなったトラクターをライフルでお釈迦にする場面と、彼の末路との哀しいシンクロに心が痛む。
BS松竹東急にて初視聴。
映画のゆったりしたテンポに寄り添うように、最初の30分強はCMなし。次にCMが入るのも1時間を過ぎてから。
作品のチョイスもシブいが心配りもニクい。
あと二ヶ月で放送が終わってしまうのは、本当に惜しい。
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