ミラクル・ペティント : 映画評論・批評
2000年5月29日更新
2000年6月10日よりシネクイントほかにてロードショー
スペイン人“兄弟”の初長編が日本上陸!
火星人も含めた風変わりなキャラクターたちや細部へのこだわりが際立つ映像、次々に繰りだされるレトロなガジェットなどは、いかにもオタク趣味に徹した作品という印象を与える。しかしもっと魅力的なのは、フランスのジュネ&キャロと同じように、現実の社会を独自の視点で異化しながらも、その世界が不思議な親近感を漂わせるところにある。
主人公ペティントは、家業が聖体拝領のウェハース作りだったり、狂信的で執念深い神父に付きまとわれるなど、その人生にカトリックが影を落としている。そんな彼は妻と子作りに励むが、性に関する知識を得る機会がなかった夫婦は、大いなる勘違いをしたまま老人になってしまう。このエピソードは、人を抑圧するばかりで実際には役に立たない形骸化した教義や儀式を痛烈に風刺している。
しかし伝統を風刺する一方で、この映画はノスタルジックな空気に満ち溢れている。その空気は、老夫婦の養子となった大男の感情によってさらに増幅される。彼は何とかして事故死した母親を取り戻そうとし、ペティントは彼の支えとなる。フェセル監督は、そんな絆を通 して、過去のなかから人間の温もりや優しさを呼び覚まそうとするのだ。
(大場正明)