ハピネス(1998) : 映画評論・批評
2000年6月29日更新
2000年7月15日よりシネ・アミューズほかにてロードショー
奇才トッド・ソロンズの描くブラックな悲喜劇
「幸福」をめぐってのさまざまな断片がパズルのように組み合わされたこの映画の「ハピネス」というタイトルが、なんだかあまりにストレートなので驚いてしまう。なぜ驚くのかというと、この映画の数多くの登場人物たちは、どうみてもいわゆる「幸福」に見えないからだ。
主人公は、成長した3人の娘とその年老いた両親、そして彼らを取り巻く何人もの人々である。それぞれが、それぞれの心の闇を抱えつつ暮らす日々の、「表層」と「闇」との葛藤が語られるこの映画で、そのバランスを欠いた彼らの行動は、悲しくもありおかしくもある。もちろん本人たちは真剣である。しかしカメラという外側からの視線がそこに介在することで、彼らの「不幸」は「おかしさ」と「悲しさ」を併せ持ってしまうことに、この映画の作者は十分に意識的である。
どんな風に意識的かといえば、通常の映画よりほんの少しだけ、彼らを余計に見つめるのである。つまり決定的なシーンでのショットが、もうこれでわかったと思ってもまだ続くのだ。残酷といえば残酷なカメラの視線によって、この映画は成立している。そして、その「長さ」という「まわり道」を通 してはじめてわれわれは「幸福」にたどり着けるのだと、それは語っているように思う。
(樋口泰人)